(『クレスコ』2004年9月号掲載記事)

臨時教職員SOS

大学非常勤講師の実態と均衡処遇への飛躍

[首都圏大学非常勤講師組合委員長]
志田 昇

アンケートから見た実態

 昨年、首都圏と関西の非常勤講師組合が共同でアンケート調査を行い、「大学非常勤講師の実態と声」という報告書をまとめた。主としてアンケート調査をもとに非常勤講師の実態を紹介したい。
 本務校を持たない専業非常勤講師の数は全国で約2万5000人。首都圏の私立大学では授業の半分近くを非常勤が担当するのが普通になっている。大半の非常勤講師は数大学に「細切れ掛け持ち勤務」(平均2.7校)している。
 週1回の90分講義を1コマ担当すると月2万5000円、年30万円程度の収入となるが、年収は250万円以下が48%である。年収300万円時代が迫っているといわれるが、非常勤講師は昔から300万円以下が主流である。大半の大学では、一時金も退職金も研究費もない。社会保険や雇用保険にも加入できない。一般に、同じコマ数の授業を専任で埋めるか、非常勤で埋めるかでは賃金で7倍、社会保険や退職金、研究費などをふくめると、10数倍の格差があることになる。
 1年契約の不安定雇用のため、雇い止めの経験者は48%にも達する。たとえば、リストラによる解雇(短大廃止など)、カリキュラム変更による解雇(第2外国語の廃止や、必修科目の選択化など)、気まぐれによる解雇(新任の専任教員の好みによる総入れ替えなど)、学生のアンケート評価や苦情メールによる解雇、中高年や長期勤続者の解雇、専任教員の労働強化・コマ数増による非常勤のコマ数減、委託・外注化(ノヴァ、ベルリッツなどへの委託)によるコマ数減など、解雇理由はいくらでもある。
 専任教員採用の際に、女性差別があるため、専任教員は大多数が男性なのに、専業非常勤講師の57%は女性である。
 このような低賃金と不安定な雇用に抗議して、1995年に関西で、1996年には首都圏で大学非常勤講師組合が結成された。
 首都圏の場合、雇用問題から出発して、60件を超える解雇争議をたたかい、解雇を撤回させるか、賃金1年分以上の金銭を払わせる形で解決してきた。雇用が安定するにつれて、待遇改善の交渉にも各大学でとりくむようになり、大月短大、神奈川工科、関東学院、明治、法政、桜美林、など一部の大学ではかなりの賃上げを実現した。しかし、1000校近くある大学と個別の交渉を重ねて、賃金相場を大幅に上げるには、莫大な時間と労力が必要になる。

パート議連との提携で飛躍的成果

 転機は、超党派の国会議員でつくる「パート労働者等の均等処遇を実現する議員連盟」(パート議連)との出会いであった。国会議員の紹介で関西の非常勤講師組合と共同で文部科学省や厚生労働省と定期的に交渉がもてるようになっただけでなく、共産党、社民党、民主党の議員が7回にわたって国会で非常勤講師問題を取り上げ、前向きの答弁を引き出してくれた。
 2003年6月には、河村文部科学副大臣(現大臣)が民主党の川橋幸子議員の質問に対して、非常勤講師は「パート労働法の適用を受け」「通常の労働者との均衡等を考慮して適正な労働条件を確保するように」と答弁し、とくに国立大学の非常勤講師賃金について「法人化になった途端にどんと下がるようなことは」「ありえないし」「あってはならない」と明言した。非常勤講師の賃金を決める際に講義準備や学生の研究指導などを考慮すべきとも発言した。
 この答弁とパート労働法の新しい指針に基づき、文科省は、2004年度の私学助成の非常勤講師補助単価を50%アップ(1時間3400円を5100円に)し、約14億円の予算を増やした。
 今年2月の文科省交渉では、非常勤講師の時給5100円(現状に近い)と専任教員の年収573万円(実際にはその2倍近く払われている)が文科省の助成の基準であり、「均衡」と考えている水準であることが改めて確認された。この均衡処遇の基準からすると、非常勤講師の賃金は現在の2倍でなければならないことになる。
 また、交渉の席で文科省は、千葉大など多数の国立大学が25%もの賃下げを計画していることについて文科省の意向ではないことを表明し、3月15日には、組合の要請に応えて、事実上賃下げに待ったをかける「通知」を出した。これによって、千葉大、金沢大、富山大などでは25%賃下げが、一橋大、東京農工大などでは10%賃下げが撤回され、大半の国立大学は非常勤講師の賃下げを断念した。
 現在、首都圏大学非常勤講師組合は、国立大学の賃下げの完全阻止、私立大学の大幅賃上げのため数十の大学と団体交渉(多い日は1日3校も!)に取り組んでいる。すでに、中央、駒沢、桜美林、明治、法政、独協など10大学で賃上げ回答が出ており、均衡処遇実現のたたかいはまさに正念場を迎えている。
(しだのぼる)

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