控室
首都圏大学非常勤講師組合
東京公務公共一般労働組合 大学非常勤講師分会
TEL 03-5395-5255
http://www.yo.rim.or.jp/~kk-ippan
2004年9月11日発行 第52号(WWW版)
委員長 志田 昇
FAX 042-627-4420
郵便振替口座
0140-90157425
大学非常勤講師分会

本号の主な内容
いま埼玉大学で何が起こっているか (4面)
コールシステムの幻想 (6面)
団交・運動ニュース (6面)
大学ルネサンス その16 (8面)
都留文科大学に赴任して (11面)
都立4大学統合と非常勤講師の雇用問題(11) (12面)

7.28 対文部科学省陳情(とその後の経過)報告

文科省「全国国立大学の非常勤講師給引き下げ実態に関し、担当課からの実態把握を可能な限り行う予定(?)」
<参加者>
文科省:高等教育局大学振興課、私学部私学行政課・私学助成課、大臣官房人事課他から8名
参加議員:民主党の金田誠一衆議院議員
組合:首都圏15名、関西圏2名、UTU2名

「(文科省の)ゼロ査定」は全くの誤認!

 今回の文部科学省への陳情は、国立大学の非常勤講師給与引き下げ問題を軸に、その認識について具体的に聞くという方向で進めた。また私学助成金に関し、助成金費目の充実と非常勤講師に関する通知の送付を求めた。それらに対し文科省は、国立大学に関し今後何からの形で実態を把握するよう努めるとし、私立大学へは改めて通知をする必要がないと難色を示した。
 さらに陳情書の質問項目の一部について、後日、議員会館内で金田誠一議員のご厚意により、文部科学省・厚生労働省の担当者からより詳細な回答をもらう機会を得、文科省による「ゼロ査定」が存在しないことについて、改めて明示した文書を得た。

国立大学の通知を私立大学に送付するのは難しい?
 事前に交渉時間を最大40分までと通告されていましたが、結果的には80分を超えた交渉でした。組合は、今までの文科省との交渉結果を足がかりに、各私立大学の団体交渉を通して非常勤講師の待遇改善に努めていますが、文科省からのなおいっそうの援護射撃も期待したいところです。
 そこで今回は、私立大学に関し次の2点を求めました。第1は、国立大学に対して出された非常勤講師給与に関する通知(15文科人第326号・平成16年3月15日「法人化後における非常勤講師の給与について(通知)」)の趣旨を、私立大学にも認識してもらうため、同様の文書を私立大学にも送付してくれないかという要求です。先に挙げた通知は、国立大学において非常勤講師給与を一挙に25%も引き下げると通告した大学や、大幅な引き下げを通告した大学に対し、それらの引き下げを急遽撤回させるという絶大な効果がありました。
 多くの私立大学では、いまだ「均衡処遇」の意味が必ずしも専任教員と非常勤講師の格差是正であるという認識を持っておらず(むしろ大学間均衡という認識)、そのため組合との交渉時にその認識のずれが障壁になります。「均衡処遇」の周知徹底を、文科省からの通知によって解決できないかというのが、組合の切実な要求です。
 それに対する文科省の回答は、今のところ考えていないというものでした。国立大学のように法制度の変更に伴うものではないので、文科省の「均衡処遇」に関する法解釈を、通知として改めて出さなければならない理由がないということです。ただし、各私立大学には折に触れて周知しているし、今後もその予定であるから、その方向でしばらくいきたいという回答でした。
 第2は、費目の充実です。最近、厚生労働省が厚生年金未加入の大学に対して、対策を強化するという話が新聞に載りました。そこで組合も前回以上に私学助成金における費目の充実を強調しました。雇用保険は、費目がないために違法行為を許容しており、労災保険も支出の確認に不可欠と説明しました。文科省は、そのための予算支出が厳しいとして消極的でしたが、厚労省と相談しながら検討する予定と答えました。

通知後も非常勤講師給与を大幅に引き下げている国立大学への対応は?
 今年度独立行政法人となった国立大学については、各地で一方的に5〜25%もの非常勤講師給の賃下げが通告されるという、驚愕の実態が組合の調査で明らかになりました。複数の大学が、通知後も大幅な引き下げを続けているという情報が寄せられたため、首都圏大学非常勤講師組合・関西圏大学非常勤講師組合は、6月中に共同で全国国立大学の非常勤講師給与の緊急調査を行い、その一覧表を別添資料として提出しました。その調査結果として次の2点への回答を文科省に求めました。
 第1は、通知後も引き下げを改めない大学への対応です。一例として福岡教育大学を挙げ、別添資料の新聞記事をもとに、この事例における文科省の具体的な対策を問いました。文科省は、事実確認と非常勤講師給与引き下げの根拠について、大学に問い合わせて対応を考えると回答しました。
 第2は、教職員の諸規定に関する公表義務への対応です。今回の組合調査において、講師給与に関する回答を拒否した国立大学がありました。そもそも独立行政法人・通則法63条2項では、国立大学は教職員の給与その他を公表しなければならないとされています。しかしそれに対し文科省は、義務はあっても具体的態様が定められていないため、調査で回答を拒否する大学が違法とはいえないと答えました。ただ、回答を拒否する大学は、もともと大幅な引き下げが噂されている大学です。さらに各大学の諸規定は文部大臣への報告が義務づけられており、また実際に報告は届いているとのことです。情報公開の具体的態様を早急に定めて各大学に公表させ、また文科省の方からも非常勤講師給与の実態把握に努めて欲しいと強く求め、文科省も対応を約束しました。
 その他年次有給休暇に関し、法制度の移行で非常勤講師だけがその取得に6ヶ月の期間を待たなければならないとされた事例については、法解釈上は従来から有給休暇が認められ、全ての職員が非常勤講師と同じ条件であるが、労使間協議で専任講師だけ継続されている可能性があるとの回答でした。ただ、この件については金田議員の方から、(1)労働基準法の解釈、(2)均衡処遇の観点から本当に問題はないのかどうかについて、文科省により明確な回答を要求しました。
 最後に、各国立大学で文科省から非常勤講師の給与が措置されなくなったという、いわゆる「ゼロ査定」の真偽について文科省の説明を求めましたが、担当者が来ていなかったため、後日改めて金田議員に回答を約束することで交渉は終わりました。

陳情後の担当課との懇談(「ゼロ査定」・有給休暇・継続雇用の解釈について)
 文科省との交渉後、金田議員のご厚意により個別に懇談する機会を得、8月3・5・26日に首都圏組合の数名が参加し、議員とともに担当者から説明を受けました。
 概要については首都圏組合の新HPでも紹介しましたが、(1)国立大学の講師委嘱状に年度内の空白期間があっても、継続雇用の解釈を左右するものではない、(2)運営費交付金の積算基準では非常勤講師の名目はないが、それは専任講師のみではなく設置基準相当の全講師への支出としており、「ゼロ査定」は全くの誤解である、(3)国家公務員法から労働基準法へ法適用が移行したことにより、専任・非常勤共に有給休暇は分断されたが、専任のみ労使協議で継続されている、等が明らかになりました。「ゼロ査定」の誤認については、後日文書を回答としていただき、有給休暇の不「均衡処遇」の是非については、さらに担当部課の回答を待っているところです。
 今回の交渉では国立大学への要求に対する成果はありましたが、油断は禁物です。どうやら、独立行政法人としての運営が必ずしも具体化されていないため(例えば職員の服務規程の公表など)、専任講師と非常勤講師との「均衡処遇」がなおざりにされている印象を受けました。私立大学問題は今回の柱ではありませんでしたが、少しずつ成果は見えているようです。いずれにせよ、組合の間断のない監視が必要な状況であると感じた交渉でした。(HM)
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『控室』原稿の送り先が変わりました。
【E-mail】 sida@… 【FAX】042-627-4420

いま埼玉大学で何が起こっているか
教養教育「改革」を名目とした非常勤講師の大量リストラ計画
埼玉大学他非常勤講師 大野英士

 国立大学法人化に便乗した非常勤講師給の賃下げ問題は、四月以来の首都圏大学非常勤組合の取り組み、団交によって、ほとんどの大学が組合の主張を認め、賃下げ撤回に追い込まれたことは、皆さんもご承知の通りです。そのなかで、埼玉大学のケースは、その悪質ぶりによって際だっています。非常勤個人に対し明確な説明や通達をすることすらなく、4月から、ランクによっては11パーセントを超える非常勤給の大巾な幅な賃下げを強行したのです。
 首都圏非常勤組合に属する埼玉大学非常勤講師有志は、6月から7月にかけ志田委員長の参加を得て、3回にわたって団交を行いこの不当な賃下げを4月にさかのぼって撤回するよう強く要求しました。しかし、当局側の代表として出席したT財務理事は、文科省は、非常勤関係の運営費交付金を大巾に削減したためのやむを得ない措置だとして賃下げ撤回を頑強に拒否しています。
 しかし、非常勤組合側の調査により、埼玉大学のこの頑迷な姿勢の背後には、教養教育「改革」を口実に、教養教育、未習語学担当を中心に非常勤のコマを2年間で6割削減するという大規模なリストラ計画が進行中であることが明らかになりました。
 埼玉大学の内部資料によれば、平成16年度、文科省から埼玉大学に交付された非常勤分の手当は、前年度比43パーセントであり、額にすると、必要予算2億五千万円に対して1億6百万円にすぎなかったということになっています。非常勤給は6割、1億5千万円カットされたということになります。 ところで、現在、埼玉大学では、外部の評価機関によって埼玉大学の教養教育がD評価を与えられたことを口実に、教養教育を抜本「改革」する計画が進行中です。その「改革」の目玉は、実用語学としての英語の必修で、当局側の計画では、入学時に学生全員にTOEICを受験させ、その成績順にクラス分けする。そして、コールシステムと呼ばれるコンピュータを使った英語教育システムを活用して「使える」英語を身につけさせるということになっています。
 しかし、この教育「改革」は英語以外の教養教育・語学教育を全面的に否定するもう一つの側面を持っています。
 埼玉大学の言い分はこうです。英語を必修化するので、英語非常勤を減らすわけにはいかない。英語の非常勤だけで、上述した非常勤手当1億6百万円は使い切ってしまうため、残り、つまり教養教育、未習語学(独仏露中)の非常勤に宛てる予算はない。従って、17年度、18年度の2年間で非常勤のコマを6割削減しなければならない。教養教育・未習語学は、コマ数や定員を全面的に見直した上、原則として専任のみが担当することとする。
 つまり、埼玉大学の賃下げは、引き続いて計画されている非常勤大巾リストラの露払いであり、大学側が賃下げ撤回を拒んでいるのも、リストラ本体の強行に支障がでることを畏れているのでしょう。 しかし、埼玉大学の主張に大きな欺瞞があることは明白です。非常勤組合に対し、文科省法人支援課は、法人化後の教員の給与に関しては、「専任・非常勤分を一括して、前年度分を上積みした額を出している」ことを明言しています。埼玉大学の主張するように非常勤給与分の運営費交付金が43パーセント、1億600万円に減額されたとするなら、文科省が支給したとする交付金との差額、1億5千万円はどこに消えてしまったのか? 埼玉大学が「消えた」1億5千万円を何らかの費目に流用していることは明らかです。おそらくはコールシステム導入に伴うコンピュータ等の施設・備品購入などへ充当しようとしているのでしょう。
 埼玉大学の動きはひとつの典型ですが、現在の大学には産学協同・実学重視というネオ・リベラリズムの反動が吹きまくっています。バブル崩壊の収拾に追われ、グローバル化の潮流にまんまと乗り遅れた日本の政府・産業界は、そのきわめて拙劣な対応として、大学の研究・教育を従来に比しても一層、経済に従属させるようになりました。このため、研究に対しては、競争的研究資金という形で、ビジネスに直結し、しかも数値化できる「成果」をあげるよう競争をあおる。また、教育に対しては、弱体化した企業の新人教育を補い、企業に入って即戦力として役立つ人材を供給するよう求める。あるいは特定の資格をとらせることに特化した教育を行う、などといった傾向が一般化し、多くの大学は自ら率先して、こうした風潮に迎合しています。
 そして、こうした文脈の中で、経済の現場で「役にたたない」基礎科学や人文科学、教養教育、英語以外の語学は、ますます切り捨てられていっています。
 しかし、この事態は、大学本来の使命を考えれば、大学にとってまさに自殺行為といってもよい! また、単に経済効率という観点からしてみても、グローバル化する世界の動きに逆行する動きと断じてもよい! それはグローバル化の先頭をいくアメリカにおいて、大学教育が最も力を入れているのが、人文科学、基礎科学系の教養教育であり、外国語教育であることを思い出すだけで十分でしょう。
 私たち埼玉大学の非常勤講師有志は、9月以降、専任教員で組織する埼玉大学教職員組合とも連携しつつ、埼玉大学当局に今年4度目の団交をもとめ。賃下げと、リストラ計画双方を撤回するよう強力に要求していくつもりです。
 今回の問題は単純で、非常勤講師料交付金が前年度比43パーセント、1億6百万円に減額されたという埼玉大学側の主張が崩せれば、非常勤講師料の賃下げや、非常勤講師の大量リストラはそもそもの根拠を失うことになります。もし、埼玉大学側が組合の要求に応じない場合には、パート議連を通じて国会で問題にしてもらったり、労働委員会に提訴する等、あらゆる手段を行使して、是非とも要求を認めさせていく必要があるでしょう。


コールシステムの幻想

 複数の国立大学にコールシステムを導入する計画があり、その設備を整えることによって非常勤講師の大幅削減を計画している大学もあるらしい、というおかしな話を耳にした。
 コールシステムのCALLとは、computer-aided language learningの略でありコンピューターを使った英語教育のことである。英語教育の一部に取り入れている大学もあり、英会話学校の中には、「インターネットレッスン」のシステムを導入し、3〜5人のグループレッスンで一回50分あたり二千円の安さ(?)を売りにしているところもある。
 テープ、LL,ビデオ、CD,DVD,そしてCALLと次々に音を聞くための教材とシステムが開発されそのレベルも使い勝手も格段によくなり、それぞれ大学の教室で、そして自習用にも使われている。最近では、大学や英会話学校のLANシステムを使わずに自宅のパソコンを使いそれほど高額ではない教材費で利用できるシステムを大手出版社が開発している。大学のコールシステムと同じようなこのインターネット英語の評判も悪くない。自宅のパソコンひとつででき、ビデオやCD だけでなくコンピューターによる自習もインターネットを使い可能となった。
 しかし、コールシステムの導入がされるからといって教員の削減はできない。現在コールを授業に取り入れている大学でも、自習で学生がコンピューターを使う場合を除き、30名前後の学生に一人の教員による授業がされている。自習用のためだけにコールシステムを導入するとしてもアドバイザーなしのコールシステム導入はかつてのLL教室と同じ運命となり、使う学生のいない大きな機材室となる。パソコンが普及した現在、パソコンを使用するだけで学力がつくとは誰も思わない。しかし、英語専用のパソコンを使えば、授業は受けなくても英語の力は身につく、と信じる人がいる。パソコンと英語という言葉が結びつくとありえない幻想が見えてくる。そして、まことしやかに語られる。このおかしな話が、英語非常勤講師の雇い止めにつながるとしたら、とても恐ろしい。(兎)

団交・運動ニュース

法政大学
7月7日の七夕の日、法政大学市ヶ谷校舎で第2回目の団体交渉が行われ、大学側から第一次回答が出されました。
各号俸のベア(1次回答)
      現 行    改 定
1号俸  28,100         28,600
2号俸  28,100         28,600
3号俸  28,300         28,600
4号俸  28,800         29,200
5号俸  29,300         30,000
6号俸  30,000         30,300
7号俸  30,700         30,800
8号俸  31,500         31,600
9号俸     ベアゼロ
 なお、大学側によれば、2005年4月より、現行の号俸による給与支給を年齢給に変える予定だとの事です。また、非常勤講師が新年度開講直前に急病等で倒れた場合、なんらかの形で救済制度をとって欲しい旨、席上であらためて要求しました。大学側としては、非常勤の場合、専任と同等の休職扱いはできない、と回答しておりましたが、10数年にわたって継続雇用がなされている場合、単なるパートタイム労働とは違う、と主張し、再度検討することを要求しました。
 次回は未定ですが、要求額とかけ離れた今回の回答額はあらためてこちらでも検討することにしました。 (文責:南雲 和夫)

獨協大学
7月20日、関東地方はフェーン現象も加わって40度近い気温を記録した。この熱暑のなか、獨協大学で団交を行った。私立大学非常勤講師給与への補助金アップを踏まえての賃金引き上げの要求をめぐってである。大学側からは副学長以下事務当局もまじえて7名、組合側からは志田委員長をはじめとする組合員6名。また獨協大学教職員組合の執行部も2名参加。
 私たちの要求(補助金増額分をきちんと賃金に反映させることと、あわせて賃金アップを行うこと)はまえもって文書で渡してあったが、それに対し大学側は前回の団交で繰り返し強調した獨協原則(?)、賃金は主要25私立大学の水準に合わせて決定という慣行に今後とも従う、補助金分増額に関しても他大学が実施すればそれに従うが、獨協大学の方から率先して賃上げするというつもりは全くないという姿勢を貫きとおした。二時間あまり押し問答の末、補助金に見合うアップについては、他大学の対応を出来るだけ早く調査し獨協が乗り遅れていないかどうかを確かめて組合に返答するという確約だけを得て交渉を終えた。午後8時頃外に出ると、異常高温の暑苦しい空気がよどんでいた。この夜の空気のように大学も動かない。
 いま、私立大学は独自性をウリにして生き残りをはかっているが、獨協大学は賃金政策に関する限り、他大学追随という方針にどこまでもしがみついている。平均を維持することにより下方への脱落から逃れるということか。誇りある方向(経営)を選ぶのなら、パート労働法その他も含めて正規・非正規の格差が是正の対象となっている今、率先してその方向へ一歩踏み出す姿勢をとって欲しいという感想をもった。
 なお当日明らかになったことで今後の参考になりそうなことを書き出しておく。
1)獨協の専任教員の平均年俸は約1100万円。
2)非常勤講師給に係わる補助金額は2003年度の実績614万円(→2004年度は単純に1.5倍して約900万円と予想)。これは、非常勤講師への給与支払実績4億3000万円の1.4%にあたる。
3)現在の非常勤講師給(月額)
大学卒後    2003年度  2004年度
1〜8年未満   26100円   26500円
8〜12年未満   27600円    27800円
12〜20年未満  28400円   28600円
20〜30年未満  30300円  据え置き
30年以上     31800円  据え置き
 ※ 2004年度に下3ランクで若干のアップが行われているが、これは補助金増額とは関係ない。(文責:市川達人)

大学ルネサンス Renaissance その16
大学における第二外国語の危機
岡本 健

 「レジャーランド」とも「愚者の楽園」とも揶揄され続けてきた日本の大学。少子化の直撃を受け、経営の危機を迎えつつある大学は決して少なくない。これ以上悪くなることはないといわれた国立大学も、独立法人化によって変わりつつある。たしかに、日本の大学は変貌しなければならず、現に変わりつつあるのだが、この変革は、大学の主体である教員と学生の協調による内発的なものではまったくない。大学内にある「外部」によって、経営の観点のみから、学内の同意形成はほとんど無視された一方的な変質である。大学の理事会が、教育とも研究とも無縁であった銀行や証券会社など企業からきた人材を軸として構成されているから、知の「外部」による「変質」、とあえていいたい。
 効率が最優先されるところでは、多言語主義的発想は育ちにくい。EU諸国のように通訳や翻訳の労力と費用を惜しまずに複数の公用語をもって会議をおこなうよりも、英語という一言語をもって時間と労力を節約するほうが賢明であるらしい。前世紀、地球の時間をひとつにしたのは世界戦争の悲劇であったが、今世紀の日常生活ではパソコン。そのコンピューター言語が英語であるかぎり、英語は国際語=地球語のポストについたという。実利指向と産学協同が手に手をとって、外国語教育は大学にきても英語最優先。いきおい、英語以外の第二外国語のコマ数削減への圧力が強まってくる。しかし、問題の根が深いのは、これが学内の「外部」の見解だけではなく、専門課程の講座を担当している教員間でも、程度の差こそあれ、共有されていることだ。
 教育の質は政治の質に帰結する、というよりも、政治の質が教育の質を決定しているというほうがよい。日本における国際化とは、アメリカが世界の警察たらんとしているかぎり、つまるところアメリカ化に過ぎない。アメリカ化の意識さえ希薄なのだから、この無意識は危険である。残念ながら、最初からEU諸国のあり方は視野にない。先進国における外国語教育の標準は、母語以外二つの外国語を中等教育課程から学ばせているというのに。この点、日本はよほど孤立いる、というか、無条件には先進国とはいいがたい。
 現在の第二外国語の教育制度は、エリート養成機関であった旧制高校のカリキュラムに由来する。一八八六年、明治国家の指導層を養成すべく、第一から第五まで五つの高等学校が創設された。当時、男子三百人に一人の進学率。このすぐれて選ばれた場で、ドイツ語やフランス語学習の比重は今日よりもはるかに大きかった。平等を旗印に掲げた戦後教育の急速な大衆化のなかで、エリート教育の象徴でもあった第二外国語教育が遺産として健全に機能しなくなるのは必定だ。寮で文学や国家を論じあったかつてのエリートたちでさえ、今日の学生に比べて何倍もの時間をかけて習得していったのに。大学は語学専門学校とは違って、日常表現などのたんなる技術を教えるところではないと自負してきた教員もいるだろう。だが、結果として、ごくごく一部の良心的な大学の幸福な学部を除いて、その蔑視してきた技術すら卒業する学生に手渡せなかった事実も厳然としてある。大学が卒業式で渡すものは無形の財産であって、有形の財産ではない、と悪びれずに断言した語学教員もいたが、それにしては日本の大学の学費はあまりにも高すぎる。
 だから、大学の「外部」はここを突く。「そう、無形のものはもう要らない。この高速化時代にあってはすぐに使える有形のものだけでいい。あまりに文学的な文学部などもう要らない。外国語は英語だけでいい」。その英語の教育も、効率と経済性の観点が優先される。教育の一部を「ベルリッツ」などの外部機関に委託したり、大学自体が企業と共同出資して語学会社を設立し、そこから低賃金で有期雇用の契約講師(インストラクター)を派遣する。こうして大学はいま、パートタイム労働者の待遇を改善すべきという国の「パート処遇指針」に反して、その内部に差別構造を積極的につくり出していっている。
 さらに、将来的にはコンピューターが最大限に活用され、学生は在宅でも英語を学べるようになるという。この恐るべき無機的な波はいずれ、細々と生き延びている第二外国語にも及ぶだろう。先端技術を駆使したすぐれて未来的な教育方法を全否定する気は、むろん、まったくない。こちらだって、後ろを向いて歩いているわけではない。ただ忘れないでいてもらいたい、教育の基本は、人間(教員)と人間(学生)との人間的な関係のなかにしかなく、この関係が築かれてゆく場はネット上ではない、どんな先端技術とも無縁の場だ、そして、ここにこそ思い出が生まれることを。
 残念ながらこの国は、ゆっくりと時間をかけて成熟してきた先進国ではない。独力で、論理的に、他者の立場で物事を考えることのできる豊潤な熟成国家ではない。形ばかりを重んじ、極端に性急で、ひどく臆病なのだ。
 「不惑」を過ぎて、日々、迷いは深くなる一方である。授業中、クラス全体がほとんど声も出してくれず、存在理由が分刻みで崩壊してゆく時間もあれば、ユニゾンで大声を張り上げてくれるクラスもあって、それはそれでうれしいのだが、そんなに簡単に信じてもいいの? もっと自分の頭で考えて、と声にならない声でいってみたりもする。この素直ないい子たち。
 近代教育の起源にあるのは植民地政策の権力理念、「いかに宗主国に従順な人民に育て上げるか」であったことに思いを馳せ、だって、この本質的に古臭い対面形式の空間、学生同士は向き合うことなく前方を見続けることを義務づけられたこの灰色の時間(だからこそ変わらなければならぬのだが)、エアコンやAV機器はとりあえず備わっているから体裁は一見満たされてはいる、しかし、いったい、なにが、ここから生まれようとして自ら生まれえるだろうか。「生まれる」、この自動詞をここで使うこと自体間違っているのでは? この素直ないい子たちが「大衆」となってどういう政治を選んで、この国を作ってゆくのだろう。
 現在の大学界における第二外国語の危機は、日々生きることに直結しているぎりぎりの最重要問題が、経済効率優先の国策のなかで(これはいまに始まったことではないけれど)無視され、忘却されようとしているかぎりにおける病状のひとつではないか。消されて見えなくなってゆくその大切なものを、それでも見続けて守るためには、だから、英語だけでは絶対に足りない。酒を呑みながら、そんなことを思う夜も少なからずある。
(早稲田大学など数大学でフランス語を担当)

都留文科大学に赴任して(雑感)

 早いもので都留文科大学に赴任して5ヶ月がたった。少しだけ大学を冷静に分析するゆとりも生まれた。 時々、「就職が決まっていなかったら今ごろ何をしていただろうか」と考えると背筋が寒くなる。冷汗、タラリである。大学の非常勤講師3つ、専門学校の掛け持ち2つ(1講義が3時間、1日2コマなんてざらだった!)、めまぐるしく過ぎる毎日が10年も続いた。そして「来年はこの仕事を続けられるだろうか」という不安の連続・・・。そんななかでも論文を書き続けた。したがって徹夜の連続・・・。自分の頭脳より自分の体力に感心した。
 私の採用が教授会で決まった忘れもしない今年の1月14日、早朝、私は悪夢にうなされて飛び起きた。悪夢の中身は次のようなものだ。都留文科大の面接の時お会いしたY先生から、突然電話が入り「緊急事態が起こったので大学に来て欲しい」とのことだった。緊急事態の中身はわからなかった。大学に向かう途中も車窓から見える景色も生々しく、不安に胸がつぶれそうな思いだったことを覚えている。大学の校門につくと顔見知りのG先生がいらして「武居、ダメになった」と冷酷に告げられた。いっきに絶望の底に落とされた。そこで飛び起きた訳である。あくまで夢の話であるが、私の記憶では、うなされて飛び起きたのは生まれて初めてかもしれない。「ダメになったって元々じゃないか」と気を取り直して専門学校の講義へ向かった。車中で午後2時ごろ、前出のG先生から「武居、今、教授会で決まった」と携帯に連絡が入った。車中でなければ絶対に「ガッツポーズ」をとっただろう。すぐに妻の職場に連絡した。専門学校の講義が終わる渋谷で夜10時に待ち合わせし、妻と2人で祝杯をあげた。
 数日後、大学から他の書類とともに年間スケジュール表が送られてきた。やはり、春休み・夏休みが長い。「これでまとまった研究ができる」そう思うと嬉しくなった。妻にそのことを告げると、急に妻の顔が青ざめ語気が強まった。「あなた、その期間は給料は出るの!?」、あまりの迫力に私も不安になった。しかし、「正規雇用なんだから出るに決まっている」そう告げると妻の顔が元の優しい顔に戻った。部屋に1人で戻ると、妻と繰り広げたバトルの数々、妻に多くの苦労をかけてきたことが思い出された。涙が止まらなかった。  そして辞令が交付される4月1日になった。都留市役所の総務課に出向き、市長室で市長から辞令を交付された。なぜか、緊張はなかった。市長を前に大変失礼だが、お尻がむずがゆくなるのを感じ、早くセレモニーを終えたかった。その後学生部長のK先生に大学を案内していただいた。キャンパスで学生に出会うたびに、身の引き締まる思いだった。
 数日後、研究室への引越し。自分の研究室を持てたことはとても嬉しかった。「毎日、朝から晩まで、いや泊り込んでも良い、ここで精一杯研究したい」そう思った。事務室を訪ねる同僚の先生がいた。研究室を持った感想をつい話してしまった。「あら、そう」とそっけない返事が返ってきて、冷やかな視線を投げかけられた。「大学院を出てすぐ就職できた奴に、俺の気持ちなんてわかってたまるか!」という気持ちをこらえて、そそくさと研究室に戻った。研究室の床に前からの油汚れが残っていた。床磨きなどしたことがない私だが、雑巾を片手に数時間かけて床をピカピカに磨きあげ、研究室を後にした。
 くだらないことを書き連ねてしまった。大学での講義やゼミ、様々な雑務など書きたいことは山ほどあるが、最後に1つだけ。都留には多くの非常勤講師が働いている。中には私が所属していた研究所の先輩もいる。とても優秀な先輩だ。多くの刺激を受けた先輩だ。「なぜ、私が就職できて、あの先輩は就職できないのか」そう考えざるをえない。胸が締めつけられる。能力の問題ではない。業績の問題でもない。タイミング、そして年齢なのか。タイミングという偶然に人生が支配され、年齢によって差別される世界。あまりに不公平な社会ではないか!大学という世界は、明らかに日本社会全体のなかでも特別に不公平な社会なのだ。
こうした大学の現状は、明らかに日本の知のあり方を歪めざるをえない。こうした現状を変えること、そして、非常勤講師であっても生活と権利が保障される大学にしていかねばならない。私が都留に赴任して肝に銘じていることがある。それは、「多くの優れた研究者がそれにふさわしい処遇を与えられず、苦しい生活を懸命に耐えて研究に励んでいること」を絶対に忘れず、これからの人生を歩んでいきたいということである。この気持ちを忘れ、もしおごることがあったら、それは私が人間の屑に等しい存在になったこと示すことになるのである。
武居秀樹(都留文科大学)

東京都立4大学統合と非常勤講師の雇用問題(11)

 前回のつづきで、受講生が一定数以下の場合に大学がクラスを不開講にする際の問題についてまとめる。
 不開講問題はなぜ起きるのか。2つの要因がある。1つは、労働契約の締結時期(7月頃から2月ぐらい)と労務提供開始時期(4月以降)との「時間差」である。もう1つは労使の利害対立である。
前者についていえば大学側の事情として、時間割の編成と担当者の決定は一定の「見込み」に基づきおこなわざるを得ないことがある。一方非常勤講師側の事情として、講義を委嘱されるそれぞれの大学の「見込み」時間割に基づき、個々人の労働時間割を設計することがある。労使双方が一定の「見込み」を前提に契約を締結するという事情である。
 したがって実際の入学者数や受講者数がその「見込み」と大幅に異なる場合(とくに減少)には、一定の「修正」が必要になる。その1つが、大学側のクラス不開講という措置である。法律的に考えると、民法でいう「事情変更の原則」の適用を考慮する場合があるということである。その原則とは、民法1条2項の信義誠実の原則に基づくもので、「契約の前提となった客観的な事情が、当事者の予期できない程度にまで著しく変わったために、当初の契約内容を変更、修正するとともに、場合によっては契約を解消することを認める理論」のことである。現実に即して、リスク負担の公平をはかるということである。
 後者についていえば、大学側と非常勤講師側双方の利害をできるだけ公正に調整することによって解決することが求められる。例えば、不開講の場合を想定し、大学が労働契約書に一方的に労働契約を解除できる旨の規定をおき、実際そのような事態に際して一切の賃金支払いを免れることは可能かといえば、それは法律上できないといえる(労基法)。
 不開講問題の現実的な解決のためには、これまで検討してきたことを踏まえて、大学側の経営状況(財政事情にもとづく支払い能力など)や非常勤講師の生活事情、当該大学に対する貢献度等(教育、研究歴など)をそれぞれ正当に考慮して、労使双方が誠実に交渉して解決策を見出すことが必要である。その交渉は、実例が示すとおり、団体交渉(労働組合法)であることが労働者にとって望ましい結果をもたらすことは言うまでもない。
(TW)
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