首都圏大学非常勤講師組合機関紙

『控室』第40号

2001年9月23日

(WWW版:一部訂正)

正式名称:都区関連一般労働組合 大学・専門学校非常勤講師分会


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(組合執行委員会声明)

市民を巻き込むテロと報復の連鎖を断ち切ろう!

 2001年9月11日、米国において、民間航空機をハイジャックし、世界貿易センタービル や国防総省などに激突させるという凶悪な同時多発テロ事件が発生しました。

 いかなる理由があろうとも、こうした残忍な無差別テロは許されるものではありません。 私たちはテロリストを厳しく非難するとともに、被害を受けられた方々・ご遺族の方々に 対し、心より哀悼の意を表します。

 これに対して、容疑者及び容疑者をかくまっていると思われる組織並びに国家に対する 軍事的な報復が、米国より主張されています。しかしテロと報復の連鎖は、一般市民を巻 き込んだ果てしない武力と憎悪の応酬になりかねません。市民社会を脅かす行為に対して は、国連を中心とした各国の協力による事実の解明・厳正な裁きと責任の明確化こそ、最 も有効な対応だと確信します。

 私たちは、今回の無差別テロのような卑劣な犯罪行為を根絶するために、冷静かつ理性 的な解決が行われることを、心より望みます。

             
2001年9月23日
首都圏大学非常勤講師組合 執行委員会
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機関紙『控室』第40号(一部訂正)        2001年9月23日 発行
首都圏大学非常勤講師組合(都区関連一般労働組合 大学・専門学校非常勤講師分会)
  委員長:志田昇 Fax兼用:0426-27-4420
  郵便振替口座 00140-9-157425/大学非常勤講師分会
  本部所在地 JR山手線・大塚駅・東京労働会館5F
  170-0005豊島区南大塚2丁目33番10号 東京労働会館5階
  Tel:03-5395-5255/FAX:03-5395-5139
・当組合について
  (1)http://www.os.rim.or.jp/~town/
  (2)http://quoniam.social.tsukuba.ac.jp/union.shtml
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   本号の主な内容
◆専任決定・引退手記
◆大学をめぐる情勢(第3面)
◆非常勤講師の健康診断を考える(第4面)
◆連載・続 実践労働法(第6面)
◆団交・運動ニュース(第7面)
◆クリップボード(第7面)

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  □【緊急提言】筑波大学外国人教師事件、最高裁へ             □
  ■         インターネット署名にご協力下さい!         ■
  □            あなたの署名が、人間らしい社会を築きます   □
  ■  支援署名ホームページは   http://203.174.72.111/skirmunt/    ■
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専任決まりました!(2)

「奇跡」を振り返って

川上 恵江

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 前回に続いて、昨年度から専任教員として各大学に着任した組合員の手記を掲載してい ます。第2回目は、川上恵江さんです。(編集部)

 7年間にわたる、長くはないが短くもない非常勤講師生活に終止符をうって、今年度か ら専任教員になることができました。2月の教授会決定が出たときには、全く思いがけな いことだったので、びっくりすると同時に、不安定な身分から解放されたという大きな安 堵を感じました。

 「思いがけない」というのは、専門分野の関係上、専任への就職がほとんど無理か非常 に困難であると半ばあきらめていたからです。私の専門は西欧社会思想史で、イタリア共 産党の創始者、アントニオ・グラムシの思想を中心に研究しています。社会思想史という 科目の歴史はそれほど長くはなく、社会思想史学会が設立されたのも70年代であったこと からも、比較的若い学問分野であることがわかります。どのような学問かというと、ヨー ロッパ近代以降の、社会にかんする思想を、それをはぐくんだ時代背景との関連のもとで、 トータルに解明しようとするもので、歴史系の科目になります。

 70年代にはさまざまな大学に「社会思想史」が設置されたようですが、90年代以降は、 専任教員が定年退職したら後任は採らない、などといった方法で整理縮小が進められてき ました。わたしがこれまで非常勤講師を勤めてきた出身大学のC大学は、各学部に社会思 想史の専任教員を配置する珍しい大学でしたが、欠員の補充は先送りにされ、非常勤でコ マを埋めています。以前、非常勤に通っていた愛知県のN大学は、社会思想史の専任教員 が亡くなってからは、科目自体もなくしたようです。

 こんな状況なので、専任どころか非常勤もなくなる気配があまりに濃厚で、ずいぶん以 前から、就職のためには、「研究分野を広げる」、はっきりいえば方向転換をおこなうし かないだろうと、周囲の人々からアドヴァイスされていました。でも、好きでやっている 研究なので、そう簡単に変えるわけにもいかず、もちろんやめたくもないので、ほとんど 絶望しながらも、好きなグラムシ研究と、好きな社会思想史の講義と、波乗りという、ま るで趣味中心の生活を送ってきました。それも、東京の実家に居座りつづけたためにでき たことなのですが、実はこの「パラサイト・シングル」を続けるのが、非常勤生活で何よ りも一番つらかったことです。

 「パラサイト・シングル」というと、世間ではずいぶんお気楽なイメージで語られてい ますが、実際には、とりわけ女性の経済的自立の困難さを示すひとつの現象に他なりませ ん。成人してもなお、親に依存せざるをえないという状況、一人前扱いされない屈辱、そ れに耐えるのにもっとも「根性」が必要でした。今でも平静な気持ちで語ることはできま せん。「親元にいられて気楽だね」とか「女性はいいよね」などと臆面もなく発言する人 には、自分の時間が家の用事や家族の用事で際限なく侵食されていく実態をぜひお見せし たかった。

 楽しくもつらいこんな生活が今後もずっと続くのだろうとあきらめながらも、たまに気 が向いた時にインターネットで公募情報をチェックしては、やっぱり私が引っかかるよう なポストの公募はないなと確認したり、そんな日常生活をおくっていたある日、非常勤講 師組合の組合員Nさんから電話をいただきました。組合で流している公募情報で、私の専 門分野にぴったりの公募を見つけたという、ありがたい情報提供でした。でも制限年齢を 1歳超えていたために、わたしが渋っていると、少々なら関係ないからダメもとで出して みたら、とアドヴァイスいただいたので、それでやっと応募してみる気になったのです。 公募自体がきわめて数少ないため、おそらくこれで3回目の応募だったと思います。どう せダメだろうと思ったため、履歴書にありあわせの古い写真を添付し、家の用事が多忙を きわめているときに大急ぎで書類を作成して、大学に送付しました。そんなわけで、面接 の通知をうけたときには、まるでニセモノ写真と、全く記憶にない「大学教育への抱負」 に動揺するはめになってしまいました。

 ともあれ、結果はめでたく採用で、これまで非常勤でも講義してきた社会思想史を教え られることになりました。願ってもないポストで、大学院時代の指導教授をはじめ、ほと んどすべての人に「奇跡」といわれました。整理縮小科目で、就職に不利といわれる女性 で、「色つき」といわれる研究で、さらに何の「押し」も「引き」もなかったので、自分 でも本当に奇跡だと思います。わたしの場合、大部分この非常勤講師組合のおかげですが、 それも含めて専任への就職は「運」だと思います。まるで可能性のなさそうな私が決まっ たのですから、他の研究者のみなさんは大きな希望を持ちうるでしょう。  今現在は、本務校のある熊本と、非常勤を続けている東京とを行ったり来たりの、忙し い生活を送っていますが、生活の経済的基盤ができたことで、元気に楽しい毎日を過ごし ています。だからこそ逆に、非常勤講師という不安定な雇用形態の非人道性に、強い怒り と悲しみを覚えます。人間らしい労働と生活の権利保障を求めて、ともに粘りづよい闘い を展開していきましょう。


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引退しました

支援者へ「退く」にあたって

井本 三夫

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 今まで多くの協力をいただいた組合員が、支援者に引退しました。その経緯と今後への
提言等の手記を紹介します。(編集部)

 いろいろ経験し考えがまとまって来なければ、これが自分のやるべき事、やれそうな事
だと言えるものはわからない。小生の場合、わかりかけてそれに踏み切ったのが50歳。も
う老人性の故障が頭を出し始めていて、仕事がまとまり出す頃には、一通り出そろって立
派に病気と言えるものも混じるようになっていた。ガンの手術を二度行ったが、特に二度
目の場合偶然に発見した転移だったので、気づかずにいたら何もできずにあの世行きにな
るところだった。
 非常勤講師問題に気づかされたのもこの時分だったから、仕事と二股かけてやれるとは
思えなかった。それで体を動かすようなお手伝いは何もしなかったわけで、このたび70歳
も越したので支援者に「退く」といっても、もともと退いていたのである。ただ申しわけ
ないのは、自分が書いた理論の実践的始末もできないことである。近頃しきりに、人生は
短く人間そういくつも仕事はできないものだ、と嘆じてばかりいる所以である。
 そんな小生ではあるが、『大学教師はパートでいいのか』や『大学危機と非常勤講師運
動』の中で書いたことは本気で考えたことなので、今後の方向はやはり気にならざるを得
ない。少子化・不景気による私学の縮小・統合のみならず、国公立の政府・財界による経
営化が行き着くところまで行くとき、任期制をはじめ不安定雇用の諸形態は広範・共通な
らざるを得ないであろう。しかしこのことは、(1)「非常勤」の名の下で企業別終身雇
用制の補完物以上のものではなかった日本の大学の不安定雇用が、明治以来初めて主要で
共通な雇用形態として、大学企業別組合という「非常勤」差別の基盤をつき崩し、他方
(2)終身雇用制で各大学に縛られていた高等教育労働力が流動化することで市場が開か
れ、企業別組合を超えた共通基盤が生まれつつあることを意味する。その可能性を現実に
するためにやるべき事は、非常勤講師以外の諸種の「学内」不安定雇用教職員との話し合
いの道を開くことではなかろうか。諸兄姉の意見や如何。


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   大学をめぐる情勢 −マスコミの記事を素材として−
                             志田 昇
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 最近の大学情勢は、ますます暗いものになっていますが、書記長が集めてくれた新聞記
事を素材に現状を分析してみました。

▼国公私学「トップ30大学」に予算重点配分
 文部科学省は、6月に「大学(国立大学)の構造改革の方針」をまとめ、「国公私トッ
プ30大学を世界最高水準に」という方針を打ち出しました。第三者評価による競争原理を
導入し、評価結果に応じて、主要30大学に資金を重点配分するというものです。
 大学全体に対する予算は増やさず、30大学に「世界最高水準」めざして重点配分するわ
けですから、全国で99校の国立大学、900校を越える私立大学の大半は切り捨てられるこ
とに成りかねません。まさに「痛み」を伴う小泉流「構造改革」の大学版です。

▼4年間で短大44校以上消える
 全国の私立大学教授らで作る「国庫助成に関する全国私立大学教授会連合」は、5月に
「私立大学白書」を公表しました。それによると、この4年間に少なくとも44校の短大が
学生募集停止や4年制大学への改組により「消滅」したことが分かりました。また、今後4
年制への改組を予定している短大は、回答した112校中4割以上の48校に上ります。

▼私大バブルはじけ自治体財政の重荷に
 文部科学省によると、1982年度以降に自治体の支援を受けて開学したり、学部学科を増
設したりした大学・短大は約160校。大学の定員割れ(2000年度で大学全体の28%、短大
の58%)が深刻化する中で、特に地方大学の危機が進行し、一部では自治体の財政の重荷
となりつつあります。「政府は大手銀行の不良債権処理を進めているが、その一環として、
銀行の融資先である大学破綻処理問題が浮上する可能性も指摘されている」(2001年6月4
日、朝日新聞)という意見も聞かれます。

▼多摩44大学が一般教養科目を共同開講
 多摩地域の中央大学など44大学がJR立川駅などにサテライトキャンパスを設立し、一般
教養科目の講座を共同で開く計画が進んでいます(2年後に発足の予定)。「語学や情報
処理など各大学が共通して持つ一般教養科目を共同開講にすることで、多摩地域に多い単
科大学の経費削減を目指す」(2001年5月31日、日本経済新聞)。これでは、個別の大学
は一般教養科目を完全に外注化して、責任を放棄することになります。人件費を減らした
いのでしょうが、一般教養科目を担当する非常勤講師は、今でもタダ同然で働いているの
ですから、経費削減効果はほとんど期待できないでしょう。
 むしろ、各大学が非常勤講師を活用して、小人数教育で一般教養科目を充実させ、教育
サービスの質を競い合うことこそ、大学生き残りの道ではないでしょうか。サービスの質
を下げてもたれあうのには、とても賛成できません。

▼社会人の入学者が急増
 暗い話題なら、まだまだありますが、明るい話題を探してみました。「今年度の社会人
大学院生は、博士課程を含めると前年度より4000人増え、3万人弱にのぼる。・・・小中
高の教師のリフレッシュのための大学院の活用も検討すべきだ。教育学者の佐藤学・東大
教授は、教職10年目の教師の希望者全員に1年間、大学院で学ぶ機会を与えることを提案
している(『教育改革をデザインする』)。傾聴に値する」(9月5日、朝日社説)。
 私の経験でも、講義を一番熱心に聞いてくれたのは、夜学の社会人でした。社会人がも
っと沢山大学に来ればいいと私も思います。
 ちなみに、政府の産業構造改革・雇用対策本部(本部長・小泉純一郎)は、雇用対策の
目玉として「大学に社会人100万人」という方針を打ち出しました(2001年6月14日、日本
経済新聞)。ただし、その中身は、遠隔授業(衛星放送やインターネット)による単位取
得を簡単にするというお手軽なものがほとんどです。これで失業が減るのでしょうか。


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      非常勤講師の健康診断を考える
                            松村 比奈子
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 最近ごく少数ながら、非常勤講師に対して健康診断を大学負担で実施するところが出て
きました。従来から組合では、健全な労働環境の整備として、非常勤講師にも専任講師と
同様の健康診断を実施するよう要求してきましたが、ここへ来て徐々に現実化しています。
これを機会に問題を整理し、非常勤講師にとって健康診断はどうあるべきかを、いくつか
の大学の資料をもとに、まとめてみました。(編集部)

▼健康診断を実施する大学
 非常勤講師も受けられる健康診断を実施している大学として、組合員から寄せられた資
料によれば、神奈川工科大学・法政大学などがあげられます。その他様々な情報から、関
東圏では、さらに複数の大学で健康診断が実施されているようです。

▼健康診断と労働安全衛生
 職場における労働者の安全・健康の確保と快適な作業環境のため、労働基準法のその方
面での整備を目的に、1973年、『労働安全衛生法』が制定されました。そこでは、(1)
事業者は労働災害を防止するために必要な基準を守るだけではなく、快い職場の環境をつ
くって労働条件を改善し、労働者の安全と健康を守らなければならない、(2)事業者は、
労働者の雇い入れや業務の変更時には、仕事の手順や安全衛生教育を行なわなければなら
ない(59条)、(3)事業者は、有害な職場環境を改善し労働者の健康を守るため、作業
環境を測定し健康診断を実施しなければならない(66条)、等を定めています。またILO
パート労働条約は、職業安全衛生については、フルタイム労働者と同一の、母性保護、年
次有給休暇、有給公休日、疾病休暇等の条件を保障すべきものとしています。大学におい
て、専任と同じく、あるいはそれ以上に特定多数の学生を教えている非常勤講師の安全衛
生を正しくチェックすることは、学生に対する大学の基本的な義務でもあります。ですか
ら安全と衛生には、専任も非常勤もないといえます。

▼使用者義務としての健康診断の範囲
 前記の法律では、「常時使用する労働者」を雇い入れる際に、健康診断を実施する必要
があります。さらに1年1回以上定期に健康診断を実施すること、深夜業を含む勤務または
一定の有害業務につく場合については6ヵ月に1回以上実施する必要がある(第66条)とな
っています。「常時使用する労働者」については、一部のパート労働者にも有効です。通
達(平5・12・1基発第633号、婦発第272号、職発第839号、能発弟280号)では、次の2つ
の要件を満たすものとしています。
 すなわち、(1)1年以上使用されることが予定され、(2)労働時間が正規の約4分の3
以上(週30時間、月15日以上勤務)の場合は、この「常時使用する労働者」と同様にみな
されます。(2)の要件にはずれても、1週の所定労働時間が正規職員の2分の1以上の場合
は、同様に実施することが望ましいとしています。
 非常勤講師にも上記の勤務条件の人は少なからずいるはずです。もっとも、複数の大学
を掛け持ちせざるを得ない非常勤講師の場合、各大学の講義時間自体は前記の基準に当て
はまらないケースもあります。しかし仕事柄、特定多数の学生との接触が多い毎日です。
いつ感染したり、あるいは相手に感染させているかもわかりません。そうした可能性の多
い職場では、責任上からもすべての教職員に定期健康診断が不可欠ではないでしょうか?

▼非常勤講師における健康診断のメリットとデメリット
 このように考えた場合、たとえ週一コマであっても、非常勤講師が大学の講義を受け持
つ以上、大学の責任において健康診断を受診させるのは当然と思われます。また、講義に
追われて時間の余裕のない非常勤講師でも、大学内での検診ならわざわざ休講にしてまで
出かける不便はなく、受診に伴う時間のロスも大幅に防ぐことができます。もちろん、本
人の健康管理に効果的なことは言うまでもありません。
 ただし、デメリットもあります。診断結果に何らかの異常が発見された場合、就業上の
措置を講ずる義務が使用者側にあるからです。その際使用者は、健康診断の結果に基づき
労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師又は歯科医師の意見を聴かなけ
ればならないとされています(第66条の2)。次に医師等からの意見を勘案して、その必
要があると認めるときは、該当する労働者の作業の内容、労働時間その他の事情を考慮し
て、必要な措置を講じるべきであることとしています(第66条の3)。
 終身雇用が原則の専任教員なら、このような措置は好ましいものですが、雇用の定めの
ある非常勤講師にとっては、むしろ雇い止めを言い渡される恐れがあります。実際、組合
が支援しているスキルムントさんの事件では、病院の診断が無断で大学側に伝わり、それ
が原因で雇い止めにされた事例といえます。健康診断のプライバシー侵害を避けるため、
大学側は、本人宛の通知書をまず本人に渡し、後に管理上必要な事項のみを本人の承諾を
得て転記するか、コピーするようにすべきでしょう。
 なお、欧米では労働者の健康情報は会社の担当者にも秘匿されるべきという考えをとっ
ており、この考え方はILOの行動準則にも採用されました。この準則とわが国の労働安全
衛生法の規定は矛盾しています。ILOの行動準則は現在のところ批准されていませんが、
もし将来この行動準則が批准されたときは、労働安全衛生法も確実に改正されることにな
るでしょう。

▼望ましい健康診断のあり方とは
 今まで述べてきたように、非常勤講師にとって、健康診断は大きなメリットと共にデメ
リットもあります。しかし現在の労働環境を考えた場合、もはや非常勤講師の健康診断は、
対人(?)職場の労働者として当然の権利といえましょう。少なくとも、希望する非常勤
講師に対して、大学側が責任を持って健康診断を実施することは、双方にとっていかなる
不利益も生じさせないのではないでしょうか。
 ですから、もし大学側から「毎年健康診断書の提出を義務付けるが、費用は自己負担」
「指定の保健所・病院に欠勤して受診にいかなければならない」などの要求があれば、逆
に使用者側による負担や、正規と同様の集団検診に参加させるよう要求すべきです。また、
非常勤講師に健康診断の受診の定めが全くないところでは、正規に準じる扱いを求めるの
が最良ですが、正規職員に運用されている規程を見せるよう求め(法律では全ての従業員
に開示する義務があります)、組合で一緒に検討しながら、規程の確立を目指していきま
しょう。


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シリーズ【続 実践労働法】(1)
           契約書をどう考えるか
                             志田 昇
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 運動の中で生じた法律上の問題について、今後数回に分けて解説します。第1回目は契
約書の問題です。

▼文書がなくても契約は成立
 雇用契約は、文書がなくても雇用主と労働者双方の合意があれば成立します。一般には、
労働条件を明示した「就業規則」が示され、契約が成立すると、労働条件の重要な部分を
まとめた「雇い入れ通知書」が交付されるか「契約書」を交わすことになっています。大
学の非常勤講師の場合は、「雇い入れ通知書」にあたる「委嘱状」の交付という形で契約
の成立が確認されるのが普通です。その際、大切なのは労働条件を何らかの形で明示させ
ることです。

▼契約書に署名を要求されたら要注意
 最近、大学側が新たに契約書に署名捺印することを要求してくる事例が増えていますが、
これは一年契約なので、一年たったらやめてもらうこともあるという「合意」を強調する
意味をもっています。労働条件の明示は大学側の義務ですが、契約書がなくても、委嘱状
で十分契約は確認されています。今までなかった契約書に署名を要求された場合は、サイ
ンする前に組合に連絡してください。特に、「今回の更新が最後」という条件がついてい
る場合には要注意です。雇用の継続を望む場合は組合を通じて交渉する必要があります。

▼法律に反する契約書は無効
 それでは、契約書を交わしたら不満があっても全て従わなければならないのでしょうか。
組合の要求に対して大学側が「あなたたちは契約に同意したではないか」と言うことがよ
くあります。しかし、日本は法治国家ですから、たとえ就業規則や契約書に書かれていて
も法律に違反する部分は無効です。
 例えば、「労働災害保険には加入していない」(法律では全員加入が義務)とか「大学
の都合で休業となった場合にも賃金を払わない」(法律では最低でも6割は支給する義務)
という規定が就業規則や契約書にあっても、法律に違反するので無効です。
 従ってこのような違法な規定がある大学でも、組合または個人が法律に基づいて要求す
れば、労災の治療費を払わせたり、大学の都合による休業中の賃金を支払わせたりできる
わけです。この二つの問題では実際に払わせた例もあります。

▼労働協約は個々の契約書より優先される
 また法律には違反しなくても、改善すべきことがあれば、契約内容を変更することもで
きます。例えば賃金が安すぎる場合、労働組合に加入して団体交渉をし労働協約(会社と
組合との約束−−正式には書面)を結べば、賃上げが可能です。実際に個々人が契約した
ときの約束より大幅に高い賃金が、4月にさか上って支給されるされることもよくありま
す。労働協約は、個々の契約書や使用者が作成する就業規則よりも効力が強く、労働協約
に反する契約書は無効となります。

▼労働組合があって初めて労使対等
 近代社会では、個人の契約が尊重されています。しかし、大リーグのイチロー選手や佐
々木選手のような大スターを別にすれば、労働者(特に有期雇用のパート労働者)と会社
では、あまりにも力の差があり、個人が対等の交渉によって自由に契約を結ぶのは困難で
す(大学非常勤講師の場合は断って失業するか、出された条件を飲むかのどちらかです)。
そこで労働者は、団結して労働組合を作り、使用者と対等に交渉して労働条件を向上させ
るようになったのです。組合があってこそ個人が尊重され、対等な「契約」が結べるよう
になるのではないでしょうか。


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             団交・運動ニュース
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 理不尽な雇い止めの撤回、労働条件改善のための団交は、組合活動の基幹をなすもので
す。最近の団交の経緯・経過報告です。(編集部)

2001年度春闘の中間報告
   明治大学・法政大学−−対照的な二大学の姿勢−−

 2001年度春闘の団体交渉が、7月12日(明治大学)、7月25日(法政大学)にそれぞれ行
われ、各大学の組合員及び担当執行委員などが出席して行われました。
 まず明治大学の姿勢は、積極的に組合側の要求を検討し、これを可能な限り受け入れよ
うとする熱意が組合側に示されたものでした。最低号俸の月額30000円という要求は達成
できなかったものの、29400円という金額を提示し、さらに大学再編などで人事を異動す
る際にも、非常勤講師を真っ先に解雇するというのではなく、可能な限り担当できる科目
を受け持ってもらうよう努力する、との回答でした。
 一方、法政大学はこれと全く対照的な姿勢で、しばしばその回答は組合側を唖然とさせ
るものでした。まず賃金については、1〜8号俸(および9-1号俸)まで一律300円アップと
いう回答を示し、組合側の要求(1000円アップ)に対して「これ以上、上げるつもりはな
い」の一本槍でした。さらに、組合側が復活を要求している退職慰労金についても、「再
検討はしない」の一点張りで、要求を真剣に検討していることすら疑わしいような回答で
した。さらに組合事務室設置の要求についても、「部屋がない」「場所がない」などを口
実に要求を事実上拒否するなど、組合間差別を容認しかねない姿勢を示しました。
 はからずも今回の団体交渉は、両大学の非常勤講師に対する姿勢の違いを示す貴重な結
果を示すこととなりました。
(法政大学担当執行委員:南雲和夫)


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             クリップボード
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(1)『控室』原稿を募集します!

★組合員か否かを問わず随時受けつけ。掲載段階で匿名可(連絡先は必ずご通知のこと)
:プライバシ−厳守;電子メ−ルによる原稿を歓迎。短い記事・通信の類は送信者に断り
なく『控室』読者の声などとして匿名で掲載することがあります。また最近の組合運動関
連出版物等、当組合員の最近の学術出版等の情報もお待ちしています。原稿送信先(編集
担当者宛)は次の通り。
【E-Mail】s-kkch@pa2.so-net.ne.jp
【FAX】048-959-5004

(2)公募情報などの収集・配布

★大学教員等の公募情報を電子メ−ルで送信中。受信希望者は下記まで。但し、当方の都
合による遅れ・中断・中止あり。公募の情報 / 情報源情報を下記連絡先にお寄せいた
だければ幸いです。
【E-Mail】s-kkch@pa2.so-net.ne.jp
★公募情報・当組合に関する現在の状況は
(新)http://quoniam.social.tsukuba.ac.jp/union.shtml
ないしは〈組合本部〉http://www.os.rim.or.jp/~town/
をご覧ください

(3)組合関連−現勢・雑報−

★当組合の現勢は3ケタ(2001.8月現在)。ドンドン仲間を増やしましょう。手渡しや非
常勤講師用メ−ルボックスへの投函などで『控室』を配布できる方は、FAX: 042-593-
0302 まで、送付先(配布住所・氏名など)、配布する大学(学部)名、配布部数をお知
らせ下さい。所属学会・研究会等々で宣伝や支援要請なども試みて下さい。

(4)当組合員の最近の学術出版情報・組合関連出版物

★矢延洋泰「明日は現実?”大学倒産”の悪夢 少子化と新・増設の続出で経営環境は危
機的状況に」『国会画報』(麹町出版、2001年5月号)18-21頁所収。
★京滋地区私立大学非常勤講師組合編『大学非常勤講師の実態と声2001−非常勤講師実態
調査アンケート報告書(1999-2000調査)−』2001年7月1日発行、頒価:非常勤講師 500円、
一般1000円、参照:http://www18.freeweb.ne.jp/school/hijokin/
★安部愃三「第4章 女性、若手、非常勤講師等の研究者 3.非常勤講師(高等教育機関
を中心に)」;日本科学者会議編『科学者・研究者・技術者の権利白書−その理念と実態
−』(水曜社、2001年)148-155頁所収。

(5)組合員からの情報

★短大4年間で44校消えた・私大教授らが「白書」経営難くっきり(読売2001年5月26日記事要約)
 全国の私立大教授らで作る「国庫助成に関する全国私立大学教授会連合」が、「私立大
白書」を公表した。
 それによると、この間に少なくとも四十四校の短大が学生募集停止や四年制大学への改
組などで「消滅」し、今後、四年制への移行を決めたり、予定したりしている短大も、回
答した百十二校中四割以上の四十八校に上ることがわかった。高学歴志向と就職難などで、
短大人気が低落していることを受けての現象とみられる。
 一方、教員一人あたりの学生数は大学二十五人、短大二十一人で、四年前より改善され
たものの、依然国立大とは、2倍以上の格差がある。短大では、定員に対する学生充足率
が全体で95%、規模が百人程度の短大になると36%に過ぎない深刻な状況で、学生が減っ
ている。このため、同連合は「学生数で見れば、私立は大学生の九割、短大生の七割を担
っている。自由競争に任せず、経営危機に直面する私大への公財政支出を高めるべきだ」
と訴えている。

★契約更新拒否は不当・パート看護婦に勝利判決(京都地裁)(赤旗2001.9.12記事要約)
 社会保険京都病院に勤務していたパートタイム看護婦Mさんが、雇用期間の満了を理由
に契約を更新しないのは不当として、全国社会保険協会連合会を相手取り、看護婦の地位
確認などを求めた訴訟の判決が10日、京都地裁であった。河田裁判官は「(雇用の打ち切
りは)期間満了のみを理由とするものであって、客観的にみて合理的理由があるとはいい
がたいので、信義則上許されない」として、看護婦の地位を認め、判決確定まで毎月約18
万円の支払いを命じる判決を出した。・・・都合により一部削除・・・2000年9月に京都
地裁は雇い止めの無効と一審判決までの賃金の支払いを命じる仮処分を決定していた。
 今回の判決では、諸事情を勘案すると、原告が期間満了後の雇用継続を期待することに
合理性があると明確に断じ、単に労働契約の期間が満了したことだけで契約を更新しない
ことは許されず、「社会通念上相当として是認できない」としている。

(6)「闘争中の事件」コ−ナ−

★当組合では未解決事件のうち、特に悪質な例をホームページで広く世間に告発していま
す。現在
(1)東洋大学不当人事(解雇)事件
(2)帝京大学不当解雇事件
(3)相模女子大学不当解雇事件
(4)筑波大学外国人教員スキルムントさん事件
の4件を掲載中。HPアドレスは、http://www.os.rim.or.jp/~town/univ/index.html


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             【編集後記】
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 新編集委員会による『控室』第2号をお届けします。今年度から、号毎に編集長を交代
させる方式を採用することになりました。各自が新鮮な緊張で編集に取り組め、いろいろ
な意味で勉強になり楽しいです(実際は苦しみの方が多かったりして・・・)。忌憚のな
い、皆さんの感想をお待ちしています。(比)
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