首都圏大学非常勤講師組合機関紙

『控室』第37号

2000年12月17日発行

(WWW版:一部訂正)

正式名称:都区関連一般労働組合 大学・専門学校非常勤講師分会


 首都圏大学非常勤講師組合機関紙『控室』第37号
                2000年12月17日 発行
【都区関連一般労働組合 大学・専門学校非常勤講師分会】
【委員長】志田昇 Tel&Fax 0426-27-4420
【郵便振替口座】00140-9-157425 大学非常勤講師分会
【本部所在地】JR山手線・大塚駅・東京労働会館 5F
 〒170-0005 豊島区南大塚2丁目33番10号
       東京労働会館(ラパスビル)5階
 Tel 03-5395-5255 / FAX 03-5395-5139
【当組合の情報について】
 1) http://www.os.rim.or.jp/%7Etown/
 2) http://quoniam.social.tsukuba.ac.jp/union.shtml

本号の主な内容
川成洋先生懇談会東京経済大不当解雇をめぐって ■団交・運動ニュース 組合旗・組合歌募集・組合掲示板 ■科研費募集のお知らせ ■非常勤講師体験談「戦争って海外でやるの?」 ■教育文化ネットワーク(NPO法人設立申請中)講師募集 ■クリップボード付録筑波大学外国人教師事件:不当な控訴審判決に対して上告■



要旨

◆◇◆◇◆◇ 川成洋先生懇談会 ◇◆◇◆◇◆

(文責:編集部)

 10月1日、当組合の執行委員会に法政大学の川成洋教授が見え、 懇談会が持たれました。 川成氏はベストセラ−となっている『大学崩壊』(宝島新書)の著者でもあります。 以下は、当日の録音した懇談の模様を収めたものです。

【司会】法政大学の川成先生をご紹介します。 週刊誌などに登場するのでみなさんよくご存知だと思いますが、 先生は英文学を専門とされています。 首都圏大学非常勤講師組合には以前から関心を寄せていただいていまして、 『だけど教授は辞めたくない』(編著、ジャパンタイムス)でも組合員の文章を載せてもらいました。 今回の『大学崩壊』(宝島新書)でもうちの組合を取りあげてくださいましたが、 現在10万部突破のベストセラーということですから、 組合も有名になるのではないかと(笑)。 それでは川成先生、よろしくお願いいたします。

【川成】はじめまして。大学の後輩の志田委員長から頼まれまして、 のこのこやってきました。
 じつは昨日法政大学の120周年の記念式典がありました。 ぼくは法政大学の専任教員を31年やっていまして、 卒業式と入学式を行ったことがないんです。 それでたまには行かなきゃ悪いかなと思ってでかけたんですが、 祝辞が大学改革の話ばっかりなんですね。 大学改革さえ唱えていれば、すべてがうまく行く、 すべてが許される…そんなことばっかり言っている。 ぼくらは20年以上前から大学改革の話を聞かされているけれど、 どこの大学で何を改革したのか、具体的なものは何もない。 個々の先生がおかれている状況の中でがんばって何かしないと、 改革なんてできないのではないか。 一番ガンになるところからやらなくちゃならない。 こういう気持ちで『大学崩壊』を書いたのですが、 「もう大学人のマスカレード(仮装行列)は止めようじゃないか」 という基本的なスタンスは、 そのまえの『だけど教授は辞めたくない』とおなじです。
 『大学崩壊』は新聞、雑誌、著作などで大学名の固有名詞がでていればそのままだそう、 自分が聞いたこと、体験したことについては大学名はださないという基本方針で書きました。 それはべつに喧嘩したくないということではなく、早稲田、慶応、法政、 中央といったレベルでも『大学崩壊』で書いた程度なんですよ。 ましてそれ以下の大学なんか比較にならないくらいひどいと思うのね。 百数十年の伝統がある、私学の雄だなどと、 六百数十校ある大学のなかで名門と謳われている頂点に立つごく一部の大学だってこの程度なんですよ。 そういうことを言いたかったので、ことさら大学名をだす必要はなかった。 そのくらいどうしようもないという気がするわけです。
 大学の問題は全身にまわっているガン細胞みたいなもので、どこから手をつけてい いかわからない。とにかく教員組織のトップにたつ教授の実態を知らしめようと。20 年、30年も教授をやっていて1本も論文を書かない連中がうじゃうじゃいるわけです よ。そういうのが人事権にぎってろくなことをやっていないというのが現実なんで す。そこでこういう教授をたたくにあたって、教員組織の最下位にある助手との比較 をしてみようと思いました。助手といえども専任の教員ですから、いかにその境遇が 悲惨なものであるかを知ってもらうために、例の広島大の事件(広島大助手 による学部長殺害事件)をとりあげてみたわけです。じつはぼくも2年間助手の経験 があって、すごくいやな思いをしました。それから専任教員と非常勤教員の比較から もいろいろなものがみえてくるのではないかと考えて、この点も力をいれました。
 もうひとつ考えなければいけない問題は、どこの大学でも教授会が形骸化して機能 をはたしていないことがあります。ぼくは以前書いたことがあるけれども、教授会を オープンにしたらいいんじゃないのか。つまり教員審査みたいなものはべつにして、 教育やカリキュラムについては一般学生に関係することだから学生にもオープンにし たらどうか。だいたい教授会をだらだらと何時間も行う必要があるのか。たとえば 昔、京大の教養部だったと思うが、朝から夜遅くまで「自転車置場をどこにするか」 を延々と議論したなんて話もあるわけです。
 それから大学人事の停滞も問題ですね。ぼくは法政に31年いますけど、もう58歳で すからあと2年で赤いチャンチャンコを着なければならない。ぼくみたいに年とっ ちゃうと、どこも移籍のしようがないわけです。子どももいるしカミさんもいるか ら、辞めたくても辞められない。こうして人事が停滞します。もうすこし大学間の移 動がしやすいしくみを作る必要を感じますね。
 余談ですが、20年以上前に法政で非常勤講師組合を作ったことがあるんですよ。も う亡くなりましたが、スペイン史を専攻した女性の講師とふたりでね。ぼくの研究室 を事務所にして、当時の理事に「作ったからよろしく」とあいさつに行ったら、「川 成君、あまり勝手なことをしないでくれよ」といわれましたけど。そのとき、何千円 だかボーナスがでる交渉をして、はっきり覚えていないけれど、たしかうまくいった んじゃなかったかなあ。
 『大学崩壊』の中で、非常勤講師については、志田さんから『控室』や参考文献を 借りて書きました。たいへん助かりました。志田さんとは、ぼくが病気で入院してい たときに、ジャパンタイムスの編集長が見舞いにきて原稿を依頼されたことがきっか けです。編集の過程で首都圏大学非常勤講師組合の存在を知りました。それで委員長 がぼくの大学の後輩ということがわかって志田さんに原稿をお願いしたわけです。こ ういう本を書くといろいろ横槍が入って不愉快ですけど、だれかが言わなければいけ ませんからね。好意的な反応もありますよ。関西のある大学の学部長からは「よく書 いてくれた。でも大学はもっとひどいよ」という手紙もらって、じゃあぼくに言わせ ないでテメーらがもっとやれよ(笑)。
 非常勤講師組合はよくやっていますよ。以前は非常勤でもけっこう安定して働けた けど、とくにカリキュラム改革以降は厳しいようですからね。こういう状況がつづく と、勤務先の大学にたいする愛情や愛着がなくなっちゃいますよね。  大学院生の将来も暗いですね。ある旧制帝大の大学院大学英文科主任教授から聞い た話ですが、いままでの大学院は成績が悪ければ入れなくてもよかった。いまは大学 院大学となったために、マスターやドクターともちゃんと定員を確保しなければなら ない。予算がでないから。その大学院・ドクタ−コ−スの院生が3年くらいラーメン 屋でアルバイトをやっていた。その院生が今年の春、そのアルバイト先で正規の従業 員として雇われたら、指導教官が「専任になれてよかったね」(笑)。とにかく数だ けは入れなくてはならないので、修士論文が学士論文のレベルになっている。大学院 を修了しても就職先がないのに大学院生をふやす、現在の政策が問題です。

【質疑応答】

【問】専任教員の比率がさがっている状況のなかで、非常勤講師の位置付けをどのようにお考えですか。
【答】ぼくは工学部で英語を教えていますが、専任の先生は3人です。非常勤の数は わかりませんが、100人はいないとしてもかなりの数でしょう。今年の春英語が10コ マあいたので、ぼくは8人採用しました。およそ非常識なのはわ かっています。でも大学院のドクターを修了しても非常勤になれないんですよ。せめ て1コマでもいいだろうと思ったんです。とにかく1コマでも大学講師の経験になる し、翌年にコマ数がふえるかもしれない。

【問】いまのお話に関連して、私たちの側からみると大学院生が量産されて、古い非 常勤講師がその人たちに追し出される形で辞めさせられるという現状があります。
【答】ぼくの場合は、専任と非常勤で埋まらないコマを大学院修了したての若手に依 頼したのでかまわないと思う。あなたの言っていることもよくわかるけど、教え子が 大学院修了したり留学から帰ってきて、ほんとうに職がないんですよ。  たとえば今年の春、駒場で名誉教授になった先生が自分の教え子が教授している女 子大に専任で再就職しようと思ってアプライしたものの当の大学から断られてしまっ た。そうしたら、その女子大の担当者がぼくのところにきて「○○先生のことだけ ど、今年だめだった。来年やってもらうために職歴をつなげたい。1コマでいいから 先生のところで雇ってもらえないか」といってきました。ぼくは経歴をみて断りまし たよ。この先生はぼくもよく知っているけれど、まったく研究していないんです。こ んな連中よりは若い人にやってもらいたいと思います。

【問】大学の一般教養軽視について、どのようにお考えですか。
【答】おおざっぱにいうと、学生がこんなレベルだから、あらためてちゃんと教育し なければならないというのはだれも認めていることですからね。おそらく昔のやり方 に戻るんじゃないでしょうか。たとえば中学や高校で英文法を教えていません。その 結果読めないし、発音できない。ぼくは英語の教師だけど、英語はいわゆるラテン語 でいいと思うわけです。文部省はTOFELかなんかの点数をあげるために会話を中心に したんだけど、日本の成績は東南アジア諸国で下から2番か3番目です。会話中心の教 育をしても、英文法もできないけど英会話もだめだ(笑)。考えてみたら黄色い顔し たやつどうしが会って「ハウアーユウー」ていったって、おかしくともなんともない わけだよね。どうしよう もなくなってきていることがすこしづつでてきているんで、もう1回おおきな改革が おきると思います。
 2003年からですか、小学校の国語と算数の時間が3割減って英語いれるでしょう。 これからの子どもは英語できるようになるんですよ。妊娠したとき、胎教と称して英 会話スクールと産婦人科がくっついてね、赤ちゃんにモーツァル トなんかより英会話聞かせるほうがよっぽどいいんじゃないの。そんなことがありえ るはずもないんだけれど。ぼくが感じているのは、E-Mailのおかげでもう一度しっか り英語を勉強しなければならなくなるだろうと。少なくとも読み書きはね。しゃべる ほうは必要があればなんとかなります。きちんと文法の基礎があれば、現地に半年ぐ らい行けばちゃんとコミュニケーションとれるようになるんですよ。最初から人の顔 みて「ハウアーユー」なんていわなくても一 目みてわかる程度の会話しか教えないんだったら、現地へ行ってもなにもできないで すよ。いまの中学校の会話なんてそんなレベルだもの。自分がなにを考えているかを しゃべる会話じゃない。森さんがうまくしゃべれたかどうか、 「ハウアーユー」と「フーアーユー」のちがいくらいですよ。岡部先生たちが書いた 例の『分数のできない大学生』だけど、小数のできないのがたしか慶応と早稲田の経 済学部、分数が東大と京大の文学部でしょ。日本のサミットといわれている大学の1 年生があのレベルですからね。それじゃ数学はだめでも英語はできるかといえば、一 橋大学の調査でもぜんぜんできない。
 先進国は学力をどんどん上げています。日本だけが学力を下げよう下げようとして いる。大学生、大学院生、大学の先生も含めてね(笑)。文部省のいまのやり方はい つか破綻しますよ。破綻させるためにどんどんやったほうがいいわけで(笑)。
 じつは、ぼくは小学生に英語を教えるのは反対。日本語をちゃんとやってもらいた い(笑)。英語しゃべれるくらいで、外国人と仲良くできるわけないじゃない。イギ リス行ったらわかりますよ、ぜったい仲良くなれないから。もっと必要なことがいっ ぱいあります。それこそ日本人としての、いわゆるコアナレッジの方が大切ですよ ね。日本人全員が 海外渡航する予備として英語やってるような感じがする。
 大学のあたらしい学部が、みんな国際なんとかってつくのも腹たってしょうがない ですよ。国際情報環境学部とかね(笑)。これを英語に直したらどうなるの。こんな 名前の学部は外国にないですよ。なんとか福祉とかね、毎週テレ ビの娯楽番組にでてくる話題みたいな学部じゃない。

【問】大学の役割があらためて問われると思いますが。 【答】これからどんどん大学がつぶれるでしょう。大学の名前は言うわけにはいかな いけれど、有名私大で銀行管理の大学がありますからね。民間会社なら完全に経営者 が替わっています。ところが大学はそれをしないんだ。卒業生でえらくなっているの が、いっぱいいるからね。わが法政じゃありませんよ(笑)。

 最後に若い研究者たちに、一言いっておきます。いま勉強しておけよ、ちゃんと (笑)。しっかり論文を発表して、著書もだしてくださいよ。
 きょうはたいしたこと話せなかったけど、みなさんとお会いできてよかったです。 ありがとうございました。


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東京経済大学

臨時職員不当解雇問題 …… 解決金700万円で決着

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 一方的に就労規則を変え、八名の臨時職員を解雇した東京経済大学で、解雇された うちの四名が、都区一般の東京経済大学分会をつくって闘ってきました。この闘いで は、東経大分会の二名の奮闘とともに、アピール署名に参加した東経大内外からの教 員・職員の支援、そして私たちの分会からの支援が大きな力を発揮しました。全国か ら支援カンパが約23.5万円集まり、私たちの分会からは、校門前と駅頭における3回 のビラまき、6回の都労委斡旋への参加、そして打ち合わせを含めると、延べ人数に して約40名というこれまでにない組合員が参加しました。 こうした取り組みの中で、最終的には都労委の斡旋で、「退職金として700万円」と いう解決を勝ち取りました。この解決について、次の二点が確認できると考えます。

 第一に、私たちの奮闘にもかかわらず、都区一般の分会が東経大の中に残ることを きらった大学側が、どうしても職場復帰を認めなかったため、当初の目的である職場 復帰が果たせなかったことは、残念と言わざるを得ません。

 第二に、東経大がこの700万円を、退職金名目で出したことの意味は、大変大きい ものがあります。他のどの大学でもおそらく同じだと思われますが、東経大に臨時職 員の退職金制度はありません。今回、制度も、従って規定もない退職金を、専任職員 の退職金規程に準じて出したことは、全国的に見て画期的であると同時に、今後の東 経大学に働くすべての有期雇用労働者の退職金を求める闘いに貢献しうる、大きな成 果です。

 今回の闘いでは、私たちの分会が持つネットワークの力がフルに発揮され、短い時 間で全国からたくさんの支援があつまり、大学を追いつめていきました。この点を、 大学で働くあらゆる有期雇用労働者の闘いの今後に、活かしていきたいと思います。 (I.S.)


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団交・運動ニュース

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組合掲示板・拝見

 明治大学では、3ヶ所に非常勤講師組合の掲示板が設置されています。  この写真(『控室』印刷版には写真が掲載されています)は、生田校舎の中央棟3 階の講師控室にある掲示板です。

 神田、駿河台のリバティータワー3階の控室にも、和泉校舎1号館1階の控室にも あります。「オッ!組合やってるネ!」という感じで、目立っています。明治大学と の団交は、私たちの統一要求である1コマ月3万円へ向けて着々と前進しています。 団交の度に、その結果がこのように掲示されると組合への注目が、一段とアップしま す。他大学でも、要求項目の中に「組合掲示板の設置」を必ず入れて実現していきま しょう。

組合旗・組合歌を募集

 組合旗が、集まる目印になる事があるし、組合旗を持ってメーデーに参加したいと 言う声もあるので、次の総会までに旗を作ることが執行委員会で決定しました。

 いつだったか思い出せませんが、ある集会で、私は一つの旗に魅せられてしまいま した。それは、緑の旗に白く「温泉マーク」を染め抜いた旗でした。ロングスカート の女性が重そうに持っているその旗は、「銭湯を守る会」の旗で、銭湯育ちの私は、 なんだかうれしかったのです。

 さて、私たちの組合にそんなどんぴしゃりのマークがあるとは思えないし…困っ た。

 「非常勤講師と言う言葉は嫌い。『人に非ず』と言われているみたいで。」と言っ た組合員がいたけれどこの言葉を入れないわけにはいかない…。皆さんから、名案が 寄せられなければ、「首都圏大学非常勤講師組合」と大文字で入れ、都区関連一般労 組分会と小文字が入る事になると思います。

 組合歌の方は、もう全面的に皆さんの創造性にお任せします。替え歌でもいいし、 「インターナショナルでいいじゃん」なんて声もちらっとありますし…。こちらはど うしても必要というわけではありませんので、ゆっくり検討することになるでしょ う。


科研費計画調書配布中です!

 切手430円分と「奨励研究(B)の申請用紙を請求したい)旨のメモを同封して、 〒101-0061千代田区三崎町2-7-6 浅見ビル1階 科学研究費補助金計画調書用紙頒 布会(TEL 03(3263)9092-3)まで送ると、折り返し申請書類が送られてきます。申請 締め切りは2001年1月24日-26日です。

 詳細は日本学術振興会のWeb Page http://www.jsps.go.jp/)で見られます。

みなさん、積極的に応募しましょう。


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             非常勤講師体験談

戦争って、海外でやるの?

             坂田利夫

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 大学の非常勤講師という職について4年目になる。30数年に及ぶ新聞社勤務、そ の大半を記者として過ごしてきた身からすれば、大きな転換であった。もちろん、非 常勤講師は専任教員とは違い、自分が担当する教科の授業を終えればそのまま帰って もよいし、行政的な責任は一切ない。気楽である。

 とはいえ、意外な発見もあった。かっこよく言えば、教育ということの重さであ る。これまでは、顔の見えない不特定多数の読者に向けて、いわば「闇夜に鉄砲」の ように記事を書いてきたものだった。ところが、教室で私の講義を聞いている学生 は、一人一人の顔が見える。レポ−トを提出させれば、出来の善し悪しも分かる。 「教育は考えていたより大変だ」が、初めのころの感想となった。

 そうなるとこちらも、学生一人一人が今何を考え、何を悩んでいるのかも知りたく なる。教育ということをマジメに考えた結果である。だが、教室にあふれる100人 以上の学生相手では、個人指導など到底出来ない相談だ。大学側も、非常勤講師にそ こまで期待していないことは、間もなく分かった。

 私が非常勤講師を勤めるS短大で、こんな中途半端な気持ちの3年が過ぎ、4年目 に入ろうとする時に、「英語・英文コ−ス」の2年生の「ゼミ」を持って欲しい、と 頼まれた。「ゼミ」と言っても、短大の卒業に是非ものの「卒論」の個別指導であ る。気楽でなくなる反面、今の学生の考え方を知るにはいい機会だとも思い、引き受 けた。

 早速4月下旬に一泊二日の「ゼミ旅行」があり、「英語・英文コ−ス」4人の専任 教員とともに、私も旅行に参加した。短大2年生と言えば、19歳か20歳ぐらい だ。「卒論」と言っても大したものは期待できないが、学生たちにしてみれば、単位 を取れなければ卒業出来ないから、この集中研修には真剣に取り組まざるを得ない。  夜10時までの集中研修は、「坂田ゼミ」12人の学生にとっても、研修初体験の 私にとっても、それなりに収穫があったと思うのだが、私が今の学生の考え方や知識 を知る機会は、むしろ翌日のリラックスした帰り道のバスの中で、私の席の横に座っ た一学生との会話で実現した。

 前置きが長くなったが、この会話は、私にとって大変な驚きであるとともに、大袈 裟に言えば教育の実情、ひいては日本の将来を考えるうえで、かなり深刻な問題を提 起したと言っても過言ではない。

 「そんなこと、当たり前」と言う人もあるかも知れないが、いわば「駆け出し非常 勤講師」の新鮮な体験として聞いて頂きたい。

 私の横に座った女子学生は、1年の時に私の講義を二つ(「時事英語」と「英語の 動き」)とも聴いていて、私に親近感を持っていたようだ。しきりに話しかけて来 る。話が、現在住んでいる京葉線沿線のことになると、彼女は言ったものだ。「京葉 線って、東京と千葉を結ぶから京葉って言うのね。その話聞いて、すっごくカンドオ !」。「??」私の絶句の始まりだった。

 話が彼女のおじいさんのことになった。おじいさんは、高知県辺りにすんでいるら しい。「わたし、おじいさん大好き」と言い、おじいさんのあれこれを自慢する話が ひとしきり続いた。どうやら70歳代かと思い、「じゃあ、君のおじいさんは大正生 まれなのかな?」と私。「そ

 日本水運のオリンピック選手選考をめぐって、千葉すず選手がCAS(国際スポーツ仲 裁裁判所)に提訴した事件は、人々の記憶に新しいところだ。結果は、千葉選手の訴 へか退けられ、一応日本水連のメンツが立ったかのやうに受け取られてゐるかも知れ ないか、はたしてさうだらうか?CASも、選考基準が事前に明らかにされてをらず、選 手との意志疎通が十分でなかったことを認めてをり、それは、提訴費用のー部を水連 が支払ふやう要求した点に お。先生も、大正生れ?」。ぐっと来た。「冗談じゃないよ!」。私の口調がきつく なったようだ。「すみません!わたし、大正とか明治とか、よくわかんない」。割と 素直である。

 問題は次のやりとりだった。「おじいさん、戦争に行ったって、言ってた。先生は ?」。学童疎開の話をすると、じっと聞いている。私がたずねた。「おじいさん、戦 争はどこへ行ったの?」。もちろん私は、戦場のことを聞いたのだ。ぐっと詰まった のは、彼女の方だった。「ええっと?確か、か・い・が・い・・・・・・」。私の絶 句は長かった。

 戦争なんて、彼ら彼女らにとっては、歴史どころか、おとぎ話の世界なのかも知れ ない。ベトナム戦争も「ベルリンの壁」崩壊も初耳、という彼らに、何をどういう風 に教えればよいのか?タメ息を飲み込んで、今日も教壇に立っているのだが・・・・ ・・


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教育文化ネットワーク(NPO法人設立申請中)講師募集

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 教育文化ネットワーク(NPO法人申請中)では、市民公開講座の講師を募集しま す。2001年3月下旬の東京ボランティア・市民活動センター(飯田橋)の講座を皮切 りに、都内及び近郊の公共施設で順次開講します。演劇上演や翻訳出版など夢のある 企画も考えています。講義内容はとくに制限しません。大学での授業にあきたらず、 自らの学問を積極的に市民に発信したい意欲ある方の参加をお待ちしています(アル バイト的な気持ちの方はご遠慮ください)。問い合わせは下記までご連絡ください。

教育文化ネットワーク事務局
〒272-0035 市川市新田2-12-2-202
Tel・Fax 047-370-5127
http://www2.to/ecnet/
E-Mail: ecnet@vmail.vcc.ne.jp

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◆編集後記◆

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 今世紀最後の『控室』を編集したのは、新米編集委員です。執行委員のみなさん、 前・現編集長のご助力のおかげで、なんとか形がつきました。ご協力ありがとうござ いました!みんなで力を合わせれば何かが出来る、この法則は来世紀もかわらないと 思います。少しづつ、でも、できる限りたくさんの人達に組合の仕事にかかわっても らいたいと思います。(美)

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クリップ・ボ−ド

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(1)『控室』原稿を募集します!
★組合員か否かを問わず随時受けつけ。掲載段階で匿名可(連絡先は必ずご通知のこ と):プライバシ−厳守;電子メ−ルによる原稿を歓迎。短い記事・通信の類は送信 者に断りなく『控室』読者の声などとして匿名で掲載することがあります。原稿送信 先(編集担当者宛)は次の通り。
【E-Mail】 mkclara@pastel.ocn.ne.jp
【FAX】042-593-0302
(2)公募情報などの収集・配布
★大学教員等の公募情報を電子メ−ルで送信中。受信希望者は下記まで。但し、当方 の都合による遅れ・中断・中止あり。公募の情報/情報源情報を下記連絡先にお寄せ いただければ幸いです。
【E-Mail】 s-kkch@pa2.so-net.ne.jp
★ 公募情報も含め当組合に関する現在の
URL:http://quoniam.social.tsukuba.ac.jp/union.shtml
 ないしは<組合本部>
 http://www.os.rim.or.jp/%7Etown/
(3)組合関連―現勢・雑報―
★当組合の現勢は152名。組合加入用紙を配ってドンドン仲間を増やしましょう。経 費節約と宣伝範囲拡大のため、手渡しや非常勤講師用メ−ルボックスへの投函などで 『控室』を配布できる方は、FAX:042-593-0302まで、送付先(配布者の住所・氏名な ど)、配布する大学(学部)・学校名,配布部数をお知らせ下さい。運動の輪を広げ るため可能な方は、所属学会・研究会等々で宣伝や支援要請など試みて下さい。
(4)『控室』読者の声
【1】インターネットで公募の情報を探しておりましたら、偶然そちらのHP「控 室」を見つけ、読ませていただきました。公募情報の配信よろしくお願い致します。  わたくしは35号でのS・A先生よりもさらに厳しいことに、私のことを非常に認め てくれていた教授の病気などにより、非常勤での勤め先もみつけることができないま ま、帰国後2年が過ぎようとしています。アルバイトをしながら、「今までの努力は いったい何だったのだろう・・」などと涙が出そうになる時もありますが、希望をす てず、頑張りたいと思います。『控室』を読んで、挫折しそうになる自分を少し励ま せたように思います。意義あるお仕事に敬意を表します(N)。
【2】 この度は、公募情報の10月分と11月3日分をメールでお送りいただきまし て、まことにありがとうございます。大変、感謝いたしております。協力の一助とし て、些少ではございますが、カンパ金を振込みさせていただきます。公募情報が新た に加わりましたら、どうかお知らせいただければ、ありがたいのですが。  
 また、非常勤講師で生活にお困りの方で、短期のアルバイトをしたいという方 に、……相当高額になるものと思います。 以上、御礼まで(M)。
【3】ご繁忙のことと存じます。わたくしは、現在、○○大学の大学院生のYと申し ます。今年度、学位を取得する見込みで、現在、就職先を探しておりますが、なかな か情報収集に苦しんでおります。インターネット検索を続けていたところ、「公募情 報」に巡り会いました。もし、新着公募情報等の配信を行われておられるなら、是 非、わたくしにも情報提供をお願いできませんでしょうか?学位取得後の身の振り方 は全く決まって折らず、少々、焦っております。どのような情報でも結構ですので、 是非、公募情報の配信の程、宜しくお願いします。なお、就職希望先としましては、 国立・私立、四年生大学・短大、とくに限定はありません。研究が続行できるのであ れば、場所は何であれ構わないというのが、今の正直な気持ちです。お手数をおかけ しますが、何卒、宜しくお願いします。
 取り急ぎご連絡方々お願いまで(Y)。
(5)「語学教育を考える非常勤講師の会」開催中止のお詫び
 11月23日に開催を予定していました標記の会は、発案者(鈴木)の都合によ り、急遽中止とさせていただきました。この間、同会において発表をお願いしていた 方々や、参加をお願いしていた方々には大変なご迷惑をおかけしてしまったことを深 くお詫びいたします。また、同会に参加を希望していた方々にも、同じように深くお 詫びいたします(鈴木暁)。

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組合のホ−ムペ−ジ「闘争中の事件」コ−ナ−

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当組合では未解決事件のうち、特に悪質な大学・組織をホ−ムペ−ジに載せ、広く世間 に告発しています。現在

  1. 東洋大学不当人事(解雇)事件
  2. 長岡リリックホ−ル不当解雇事件
  3. 帝京大学不当解雇事件
  4. 相模女子大学不当解雇事件
  5. 筑波大学外国人教員スキルムントさん事件
  6. 秀明大学不当解雇事件
 の6件を掲載中。ホ−ムペ−ジアドレス http://www.os.rim.or.jp/~town/univ/univers.html

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付録

筑波大学外国人教師事件

不当な控訴審判決に対して上告

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 筑波大学外国語センターに外国人教師として勤務していたスキルムントさんが、 医療情報を不法に入手して更新拒否をしたのは無効であるとして、国を相手に地 位確認等を求めて起こした行政訴訟の控訴審判決が、2000年10月31日、東京高裁 であり、スキルムントさんの請求を棄却しました。この不当判決に対して弁護団は、 最高裁に上告および上告受理の申立てを行いました。それぞれ受理され、近日中 に理由書を提出する予定です。

事件の概要

 1996年4月、スキルムントさんは、心臓病で入院した際の検査で、白血病に罹患し ていることが明らかになりました。この年度は、心臓手術(3回)、白血病の検査入 院、治療薬による副作用のため何度か長期の病気休暇等を取得し、大学の配慮もあ り、職場復帰後も授業をもちませんでした。

 1997年4月に、白血病に罹患中でしたが、完全に職場復帰し、週8コマの授業を差し 障りなく行っていました。ところが、1学期の授業、試験が終えた頃の7月9日、洲崎 恵三外国語センター長(当時)に呼び出され、健康不安等を理由に次年度の契約を更新 しないことを通告されました。翌日、夫とともに洲崎センター長に会うと、同セン ター長は、更新拒否の理由として健康不安を挙げ、白血病の診断書を書いた研修医 (筑波大学病院から転出)および主治医 (筑波大学病院勤務)の二人に電話して病状を聞き出したことを明らかにしました。医 師から入手した情報というのは、以前ヘルペスという白血病に罹ったことがあり、今 度の白血病はその再発である、医者はあと2年だといっている、などというものでし た。

 ヘルペスが白血病の一種だというのは笑い話にもなりませんが、洲崎氏は、スキル ムントさんが白血病を隠して 筑波大学に就職し、再発して皆に迷惑をかけたとして怒ったようです。「医者はあと2 年だと言っている」との余命告知は、本人に重大な精神的動揺をもたらしました。

 医療情報の違法な入手に基づく不当な「解雇」であることを確信したスキルムント さんは、弁護士を通じてその旨 を大学に申し入れ、話し合いを申し込みましたが、筑波大学は、関係者に箝口令をし き、口裏あわせを行い、「契約 の満了によるものであり、病気を理由とするものではない」との回答書を学長名で送 付してきました。

 話し合いによる解決が不可能とわかり、スキルムントさんは1998年1月にまず、洲 崎恵三外国語センター長に損 害賠償を請求する民事訴訟を水戸地裁土浦支部に起こし、3月には国に対して外国人 教師としての地位確認等を求める行政訴訟を東京地方裁判所に起こしました。

水戸地裁での洲崎被告の主張

 洲崎恵三被告は、、契約が更新されなかったのは、研究、教育業績の不足によるも のであり、病気を理由とするものではない、白血病の診断書を書いた医師に電話をか けようとしたが、すでに転出しているとのことで、筑波大学病院の人事に問い合わ せ、転出先の電話番号を入手した;電話を入れると、「すでに私は転出しているの で、主治医である長谷川医師に問い合わせて下さい」との回答があり、これによって 主治医の名を知った;主治医の長谷川医師には「病状」を尋ねたのではなく、「授 業」を行えるかどうかを尋ねたにすぎない;主治医から得た情報は「大丈夫だ」とい うものであり、「これを聞いて我々と同じ健康な人間だなと思った」;二人の医師に 電話を架けた事実は原告らには語っていないし、ましてや「余命告知」などするはず もない;主治医の話の中に「ヘルペス」が出てきたが、 んのことか全くわからなかった、この事件はすべて原告の「捏造」「でっち上げ」で ある、などと主張しました。

 証言台に立った主治医は、洲崎被告に原告の生命が2年後には危ういとの医療情報 を漏洩した事実を否定しましたが(偽証の疑いが濃厚)、洲崎被告に、原告の白血病の 発病時期が「ずっと以前である」ことを告げた、その推定の根拠として、原告がヘル ペスに罹患していた事実を告げた、等と証言しました。また、同医師は、陳述書にお いて、洲崎被告は架電の際、同医師に架電する前に、診断書を書いた別の医師(研修 医)に架電していたという事実を語らなかった、「変な用語」すなわち「有毛状性白 血病」という専門用語を使用した、との事実を明らかにしました。

 白血病の診断書を書いた研修医(当時)も証言台に立ち、洲崎氏および筑波大学関係 者から、スキルムントさん病状についての問い合わせがあったという記憶はない;し たがって、スキルムントさんの主治医が誰であるかを告げたという記憶もない、通 常、そのような問い合わせには、医師の守秘義務があるので、「ご家族以外には話せ ません」と言って断っている、などと証言しました。

洲崎被告の主張の破綻

 この訴訟は洲崎被告個人に対するものであるにもかかわらず、筑波大学は彼を全面 的にバック、アップしていました。総務担当副学長の下、総務課の官僚達により支援 体制がつくられていました。被告準備書面も多数の「頭脳」を動員して書いたようで すが、たくさんほころびが出てきました。

 ◎疑問1:洲崎氏が語らずして、研修医への架電の事実をどうして訴状に書くこと ができようか。

 研修医は洲崎氏からの架電の記憶はないと証言しているので、この研修医が自分へ の架電の事実を原告に語ることは不可能です。同じく主治医も陳述書で、洲崎氏は、 自分に電話を架けて来た際に、その前に研修医に電話を架けていたという事実を明ら かにしなかった、と証言してるので、原告らは主治医から聞き出すことも不可能で す。このことは、洲崎被告がどんなに否定しようと、98年7月10日、原告らに更新拒 否の理由を説明する際に、研修医と主治医に架電した経緯、入手した情報を開陳した ことを示すものです。

 実は、これは重大な意味を持っています。もし、洲崎氏が主張するように、当日、 原告らに「研究、教育業績の不 足を総合的に判断した結果であることを伝えたに過ぎない」なら、原告の診断書を書 いた研修医と主治医に電話を かけたという事実を持ち出すことなどありえないからです。洲崎氏がこれを持ち出し たことは、本来なら特定できない原告の白血病の主治医をーー主治医は診断書を書い ていないので、通常の者には主治医は特定できない−いかに彼が特定したかを得意げ に示し、また、主治医からの情報であるとして、更新拒否の根拠とされた原告の健康 不安が確かなものであることを示すためでした。

 ◎疑問2:洲崎氏が語らずして、「ヘルペス」に対する無理解をどうして訴状に書 くことができようか。

 洲崎氏と主治医の双方が、二人の間に「ヘルペス」についてのやりとりがあったこ とを認めています。二人の電話 でのやりとりを、しかも洲崎氏の「ヘルペス」についての無理解を、洲崎氏自身が原 告らに語らない限り、原告がこ の事実を訴状に書くことなど不可能なことは明らかです。原告らに超能力でもあっ て、洲崎氏が二人の間に「ヘルペ ス」のやりとりがあり、しかも洲崎氏が理解でなかったことを察知し、訴状に反映さ せたとでもいうのでしょうか。

 洲崎氏は、原告らに「ヘルペス」について語ったという事実を肯定してしまうと、 医師から医療情報を不法に入手 したこと、更新拒否の理由が主治医から得た医療情報にあること、を認めることに なってしまいます。だから、主治 医から「ヘルペス」についての話が出たが、全く分からなかった、と主張したので す。しかし、これではボロが出ることに、洲崎氏も官僚達も気付かなかったようで す。主治医からはヘルペスについての話は出なかった、と主張すれ ばよかったものを…。全く滑稽です。

 洲崎氏が診断書記載の「有毛状性白血病」という病名を挙げて医師に病状を尋ねて いたことは、医師の陳述書により明らかになりました。「病状」ではなく、「授業」 について尋ねたなどという主張が、大学教授の口から出るとは驚 きです。さらに驚くのは、同じ詭弁が、国(=筑波大学)によってもなされていること です。あいた口が塞がらないとはこのことです。

水戸地裁土浦支部判決

 99年2月に出された判決は、スキルムントさんの損害賠償請求を棄却しました。理 由は、公務員は公務中の加害 行為について民事賠償責任を負わないことを定めた国家賠償法の規定に基づき、国家 公務員である洲崎恵三被告は免責されというものでした。同判決は、しかし、主治医 が守秘義務に反して医療情報を漏洩したこと、洲崎恵三被告が職権を濫用して不法に 「一定の」医療情報を入手したことを認めました。入手した医療情報と更新拒否との 関係については、「この因果関係を立証するに足る十分な証拠はない」、との判断を 示しました。実際、この時点で、原告は、これを立証する証拠は持っていませんでし た。関係者の口裏合わせは「完璧」だったようです。

東京地裁(行政訴訟)判決

 地位確認を求めた行政訴訟でも、国(=筑波大学)は、医療情報の漏洩も入手もな く、原告との契約を更新しなかっ たのは契約の満了によるものであり、病気を理由とするものではない等と主張しまし た。また、「外国人教師」契約 には私法法規は適用されず、「会計年度独立の原則」のために外国人教師の契約が会 計年度をまたがって継続することは観念することできず、したがって解雇権濫用や更 新期待権濫用の法理の適用も類推適用もその前提を欠いているなどと主張しました。

 1999年2月の判決は、外国人教師契約が私法上の契約であり、したがって民法、労 働基準法の適用される契約であることを認めましたが、「会計年度独立の原則」のた め、外国人教師が会計年度を超えて雇用されるということを観念することができず、 解雇権濫用法理の適用等の前提を欠くとして原告の請求を棄却しました。この判決が 圧巻だったのは、「人種差別や女性差別など公序良俗に反する理由による更新拒否 が、司法審査を免れることになってもやむをえない」と言い放ったことです。法の番 人であるべき裁判所みずから、違法行為を容認する姿勢を明らかにしたからです。

東京高裁(行政訴訟)判決

 東京高裁に控訴したスキルムントさんは、洲崎氏が違法に入手した医療情報を悪用 して更新拒否の決定を下したことを立証する新証拠や、同氏の偽証や国(=筑波大学) の主張が虚偽であることを立証する新証拠を提出し、裁判所に事実審理を行うように 何度も主張しました。しかし、東京高裁は本年5月に審理を打ち切り、10月31日に判 決を下し、控訴を棄却しました。提出した証拠とは以下のものです。

 証拠:洲崎氏および国(=筑波大学)の主張によれば、更新拒否の決定は、97年7月 2日に、人事権を持つ外国語 センター運営委員会が、研究教育業績の不足を理由に更新を拒否した。彼等はまた、 洲崎センター長はこの日の運営委員会に、更新の時期を迎えていた3人の外国人教師 について、研究、業績目録を提出し、一括して可否を諮ったところ、上記の理由でス キルムントさんの更新を拒否することが決まったとも主張しました。

 ところが、この会議に出席していた運営委員の一人が東京高裁に陳述書を提出し、 次の事実を明らかにしまし。 すなわち、この日、洲崎外国語センター長は、スキルムントさんの契約を更新しない という原案を自分で提出した、 更新拒否の理由として、主治医に電話をかけてきいたところ、スキルムントさんは回 復の困難な病気に罹っている、 これまで代講等で対処したが、事態の改善は見込めない、等のことを挙げた;ほとん ど審議されずに原案は承認された、というものです。

 洲崎氏は、職権を濫用して同じ大学の付属病院の格下の医師から医療情報を入手 し、この情報に基づいて更新拒否の判断を下し(おそらくこの判断には、井上修一、 上田浩二、加藤慶二の各教授も加わっていたと思われる。彼等が口裏をあわせている のは、一連の不法行為が、洲崎氏の一存で行われたものではなく、4教授の合意の下 に行われたためと思われる)、自ら外国語センター運営委員会に更新拒否の提案を し、理由として、医師から入手した情報を挙げていたことが、この証言によって明ら かとなった。

 この証拠に対して国(= 筑波大学)は、「今後、事実関係については縷々主張しな い、1年契約であることのみ主張 します」と述べ、反論をしなかった。

 証拠:洲崎氏は、医師への架電の目的について当初、原告の98年4月からの2年間の 雇用が更新されるかどうか 全く分からなかったが、97年7月2日の運営委員会で更新と決まった場合、原告の健康 次第ではまた休講するかも 知れないので、98年4月からの予算と非常勤講師を事前に確保することが必要かどう かの判断材料を得るためであった、と述べていました。また、医師に架電したのは6 月末である、と主張していました。

 架電は7月2日の運営委員会での結論を待ってからでも遅くないはず、との原告と裁 判官の指摘に対して、洲崎氏 は、その年の9月以降の原告の健康についても不安であり、休職する場合に備えて事 前に外国人非常勤講師と予算を獲得する必要があるか否かを判断するためだった、と いう目的を新たに追加しました。国(=筑波大学)もこれと全く同じ主張をしました。

 ところが、これが組織的偽証であることを示す証拠が出て来ました。スキルムント さんが病気で休んでいた96年秋の教育審議会に、当時の原口外国語センター長は、ス キルントさんが97年度の丸一年を休むことを想定して、約400時間の予算請求をして いました。この会議では、この400時間については97年度の予算の示達があってから 外 国語センターに配分することが確認されていました。要するに、すでに洲崎氏が医師 に電話を架ける1年前に、スキ ルムントさんが休職しても大丈夫なように、97年度分の予算が確保されていたのでし た。97年秋以降の休職に備 えての予算の事前の確保が必要か否かを判断するために架電したという説明が、いか に泥縄かは明白です。こうした事実を知っている筑波大学が、国家の名で、公然と虚 偽の主張を準備書面にして裁判所に提出しているというのは、全く由々しき事態で す。白血病の主治医への架電の目的は、水戸地裁土浦支部の判決も認定しているよう に、契約更新の判断材料たる医療情報の取得にあったことは、いうまでもありませ ん。

 証拠:洲崎氏と大学の主張によると、更新拒否の決定は7月2日の外国語センター運 営委員会によってなされたも のであり、それ以前に、更新問題についての判断はしていない。  原告がつきとめた事実によると、洲崎氏による主治医への架電は97年6月10日で す。この架電により洲崎氏は、 重大な医療情報を入手し、直ちに動き出しました。おそらく、先ず、他のドイツ語、 文学教授である井上修一、上田 浩二、加藤慶二の各氏にも漏洩したことでしょう。

 翌日の6月11日、この4教授の誰かが(洲崎氏の可能性が一番大きいが、他の教授の 可能性もある)、非常勤講師として当時勤務していた外国人のA氏にスキルムントさん の後任として勤務しないかの打診を行っていました。この事実をスキルムントさん は、A氏との会話の録音を起こして裁判所に提出しました。

 テープによると、A氏はこの打診を断りました。すると相手は「立腹の様子」で あったといいます。A氏はその後、後任として筑波大学外国語センターに勤務してお り、難しい立場にあり、この打診が誰によってなされたかを明らかにしようとしませ ん。契約は満期をもって当然に終了するものであり、その理由は問題にならないとい う筑波大学の主張を知っていれば、真相を明らかにすることがどんな結果を招くかは 誰にも明らかでしょう。

 A氏には、本来、この打診を断る理由はありません。すでに、B国立大学で、「外国 人教師」として5年間勤務した経験があり、自分の後任として別の外国人が雇用され る事実を目の当たりにしています。スキルムントさんの雇用は更新されず、後任とし てどうかと尋ねられれば、喜びこそすれ、断ることなど考えられません。打診を断っ たのは、打診を行った教授(ら)が、医師に電話を架けたことや、更新拒否の理由とし てスキルムントさんが白血病で生命が危ういことを明らかにしたためとしか考えられ ません。教授(ら)の違法行為を容認してしまうことになる快諾の返事な ど、人権意識の高い者には行えません。

 東京高裁は、しかし、これらの新証拠にもかかわらず、事実審理をせずに5月に結 審し、10月31日に判決を下し ました。

東京高裁の判決

 東京高裁は控訴棄却の主たる理由として、控訴人(スキルムントさん)には更新期待 権はないことを挙げていま。 更新期待権がないので、筑波大学の更新拒否は権利の濫用にはあたらないというので す。更新期待権がないという判断は、原審(東京地裁)の判断を引用して行っていま す。

 その箇所は以下のとおりです。

 「江崎学長が原告との間で締結した雇用契約は民法上の雇用契約であるから、期間 の定めのある賃貸借契約などとは異なり、雇用契約で定められた契約期間が満了して も、更新拒絶または異議を述べない限り、新たな雇用契約の成立が擬製されるという わけではないのであり、従って、なんらの法的な根拠もなしに、江崎学長が原告との 間で締結した雇用契約に解雇権の濫用法理を類推適用することができないことは前記 説示のとおりであり、他に江崎学長が原告との間で締結した雇用契約が特段の理由が ないかぎり更新されることについての法的な根拠を見い出すことはできない。

  したがって…期待権侵害による更新拒絶および更新拒絶権の濫用についての原告 の主張は、その前提を欠いており、採用できない。」

 全く、馬鹿げた論理です。雇用契約の満了でもって二度と更新しないということが 行われていたなら、外国人教師 に更新期待権がないのはわかります。しかし、2年ごとに当の外国人を事実上の候補 者として、更新するか否かの審査がなされています。審査のために、当の外国人にこ の間の研究業績について聞いてきますし、当の外国人には更新を期待する「権利」が あるのは常識です。更新期待権をことさらに狭く解釈する必要などありません。

 高裁のこの論理によれば、更新期待権がないのだから、そもそもどんな理由で更新 を拒否しようとかまわないと うことになります。高裁は、さすがに原審判決のように、男女差別や人種差別を理由 とした更新拒否が司法審査を免れることになってもやむを得ない、などとは述べてい ませんが、事実上、全く同じ結論になります。だから、医療情 報の違法な取得とその情報の悪用による更新拒否であったというスキルムントさんの 主張が事実かどうかを審理もしませんでした。

 この程度の判決を出すのに、結審してから5ヶ月もかかりました。当初の判決期日 を急きょ1ヶ月のばして出したのにです、、、。原審の判決理由とは異なった「上品 な」判決理由を考えようとしたようですが、失敗です。

控訴審判決の問題点

 期限の定めのない契約であろうと、期限の定めのある契約であろうと、雇用継続中 に、公序良俗に反する理由で解雇を行っても、これが無効であることは常識です。例 えば、本人の了解もとらずに、また必要性もないのにエイズ検査を実施し、陽性を理 由に解雇した事件がありましたが、これを無効とする判決が出ています。これを解雇 権の濫用とよぶかどうかはたいした問題ではありません。要するに、基本的人権を侵 害する行為を容認してはならず、侵害に対しては基本的には原状回復で対処し、原状 回復ができない場合には損害賠償で対処するしかないのです。

 スキルムントさんの事件が、上のケースと唯一異なるのは、雇用継続中の「解雇」 ではなく、不法に入手した医療 情報を悪用して契約の「更新拒否」を行った点です。プライバシーの重大な侵害が行 われたにもかかわらず、雇用形態の違いによって、一方は雇用が保護され、他方は保 護されないという由々しき事態が生じています。

 日本国憲法には、プライバシー権についての明文の規定はありませんが、13条に よって保護されるという理解が すでに定着しています。また、日本は、国際人権規約B規約(民的および政治的権利に 関する規約) 17条を留保なく 批准しており、プライバシー権の保護を国際的に約束しています。

 プライバシー権は一旦侵害されると、原状回復の困難な権利です。したがって、通 常、損害賠償請求の対象となり ます。スキルムントさんは、外国人教師としての地位確認を求める行政訴訟と平行し て、筑波大学病院の主治医による医療情報の漏洩、洲崎恵三氏による職権を濫用した 医療情報の取得などのプライバシー侵害については、損害賠償を求めて別の訴訟で国 家を相手に闘っています。

 東京地裁と東京高裁の判決の論理によると、医療情報を悪用して「更新拒否」をし ても、この悪用行為は容認されることになります。医療情報の違法な漏洩、取得とい うプライバシーの侵害に加えて、この情報を悪用して解雇や更新拒否がなされた場 合、金銭賠償にとどまることなく原状回復をはかること、すなわち解雇や更新拒否を 無効とし、雇用関係の存続を認めることによって初めてプライバシー権は、その十全 な保護が可能となります。「やりどく」は絶対にゆるしてはなりません。

 更新期待権の有無を労働法の枠内で、しかもことさらに狭い枠内で判断し、更新期 待権がない場合には、その余のことは判断する必要もないという国(=筑波大学)の主 張ならびに東京地裁および東京高裁の判決の論理は、本末転倒の見本です。この事件 は、憲法上の権利や原則、原理が、この国では、行政機関、司法機関、また教育機関 (筑波大学)の指針に十分にはなりきれていないことを露呈させています。大学の非常 勤講師の契約の更新が、同じような公序良俗に反する理由によって拒否されても、こ の判決の論理によれば、雇用は全く保護されないことになります。このような判決 は、断じて容認できません。

スキルムントさんを支援する会
事務局: 東京都杉並区今川2ー11ー26 若竹荘 
               津和慶子
    TEL/FAX: 03 ( 3390 ) 1420  

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